セミナーレポート
英語教育におけるICTと教師の役割
英語教育やグローバル人材育成のさまざまな課題解決をテーマとした総合イベント「アルク教育ソリューションEXPO 2019」が、2019年5月31日~6月2日にかけて東京・神田で開催されました。セミナーの様子をご紹介します。
アルク教育ソリューションEXPO 2019
【日程】 2019年6月1日
【場所】 アーバンネット神田カンファレンス

教授 阿野幸一先生
AIロボットがALTの代役に?


教育の現場でも、ICTが盛んに使われるようになりました。その身近な例を、阿野幸一先生は冒頭で、会場に集まった中高大学の先生たちに紹介します。
電子黒板などのICTを、積極的に活用している新潟県のとある中学校では、英語の授業にAIロボットのALTが活躍しています。それも生徒1人に1台ずつ、可愛らしい小型のAIロボットが用意され、会話の相手をしてくれるのです。この中学校では、月に一度しかALTが来られない状況になったため、英語を話す機会を補うために、AIに着目したのだそうです。
ほかにも、子どもたちの授業参加や理解の促進を、1人1台のAIロボットでサポートする埼玉県の公立小学校、「英語表現Ⅱ」の授業でのアクティビティに、AIロボットを使っている私立高校の例が登場。教室の机の上に、ずらりとロボットが整列する写真がスクリーンに映し出され、会場に小さなざわめきが広がりました。「状況さえ許せば、自分もぜひ授業でAIロボットを使ってみたい」と意欲を見せる参加者も、少なくないようです。
「では、生身の人間のALTと、AIロボットが代行するALT、それぞれのメリット、デメリットを考えてみましょう」と阿野先生。中学、高校、大学での教員経験も長い先生は、参加者間の意見交換の時間を取り、一緒に考えながら話を進めていきます。
・ALTは週に一度来校するが、ロボットは常に教室にいる。
・ALTは教室に一人だが、ロボットは生徒一人に一台
・ALTは一斉学習、AIロボットは個人学習を得意とする
ロボットの便利さを評価する一方、人間のALTならではの利点をあげる声も次々と上がりました。ALTは生徒の気持ちを汲み取って、やり取りをしてくれる。生徒のようすや理解度を見ながら、質問のしかたを変えたり、易しい単語に置き換えたり、臨機応変な英語で対応してくれる。互いにノンバーバルコミュニケーションが通じる。言語の背景にある文化を伝えることができる、といった点です。
メリットとデメリットを知ろう
ロボットとまではいかないまでも、すでに学校現場に定着しているICTもたくさんあります。そのいくつかを取り上げて、従来のいわばアナログな手法との比較も行ないました。
・スクリーン(パワーポイント) VS 板書(ピクチャーカード)
パワーポイントで作った資料をスクリーンに映し出す方法では、多種類の画像が大量に使用できる。動画も提示できるので、現在進行形の導入などが教えやすい。ただそれらの情報は、次々と先へ送られて行くため、学生がノートに書き写したい時などは、書いた内容を残しておける板書がやはり便利。
・デジタル教科書 VS 紙の教科書
デジタル教科書は、音声や動画も交えて、多方面から生徒の理解を助けてくれる。圧倒的な情報量、練習問題のフィードバックの速さもプラス要素。対する紙の教科書は、ページ全体が見渡せる一覧性が魅力で、生徒が想像力を発揮する余地がある。
・タブレット上の資料 VS 紙によるハンドアウト資料
タブレット資料は大量の情報の一斉提供を可能にし、整理・保存も容易。一方、紙の資料は、気付いたことをどんどん書き込めるなど、自由度が高い。
・PCに記録 VS ノートをとる
PCでは、情報の整理・保存、他人との共有がいたって容易。しかも自分で自由に編集できる。ノートは学習履歴が見やすい点で優れる。
・e-learning教材 VS 参考書/問題集
e-learningは、音声や動画を駆使し録音もできるなど、学習の多面的なアシストに力を発揮。フィードバックやエラーのチェックも瞬時にできるので、個に応じた学習形態に適している。従来の参考書/問題集には、ページを開くことで周辺事項も合わせて学べる強みがある。ただし、自力で取り組めない生徒には、e-learningより難度が高いので、教員のサポートは欠かせない。
先進のICT技術と昔ながらの学びのスタイル、個々に得意分野と苦手分野を理解したうえで、それぞれの特性を生かして使い分けることがポイントのようです。
AI時代の教師に求められるもの


一昔前と比べ、自動翻訳機の精度は格段に高まり、AIが完璧な通訳・翻訳をしてくれる時代が、すぐそこまで来ているようにも思えます。
「もしそれが目指す世界なら、英語教育の存在は今後小さくなっていくのかもしれません。それでも英語教育が必要だとするなら、AIの時代の英語教育を、私たちはどのようにやっていくべきでしょう?」
阿野先生はそう問いかけ、ICTを有効に使った事例を紹介してくれました。自分の英語力に不安を抱えるある小学校の先生が、それでも自力で子どもたちに英語で語りかけ、補助としてICTの音声も聞かせていたところ、クラスの3分の2の生徒は、ICTから聞こえる正確な発音で、元気よく英語を話すようになったのだそうです。
どんな授業でも、大切なのは「子どもたちのなかに、最終的に何が残ったか」です。正確に話すこととはまた別に、相手との関係性のなかで気持ちをのせた言葉を伝えるために、人間がイニシアチブをとってICTを役立てることは、じゅうぶんできるのです。
最近は、ICTを使うことが目的になってしまっている授業も、ちらほら出てきているといいます。ICTに振り回されたり、使われたりすることなく、 授業のどの場面でICTを使うかを考え、教師の味方としてICTを使いこなす力が、求められる時代といえそうです。
(文・構成:田中洋子)