グローバル人材育成の総合ソリューションパートナー 株式会社アルクエデュケーション

セミナーレポート
テストを活かす

英語教育やグローバル人材育成のさまざまな課題解決をテーマとした総合イベント「アルク教育ソリューションEXPO 2019」が、2019年5月31日~6月2日にかけて東京・神田で開催されました。セミナーの様子をご紹介します。


アルク教育ソリューションEXPO 2019
【日程】 2019年6月1日
【場所】 アーバンネット神田カンファレンス

東京外国語大学大学院
根岸 雅史 先生


テストが活かせない原因は?

テストと聞くと、点数に一喜一憂のイメージがありますが、間違った箇所を振り返り、学びに活かしてこそテストの意味があると、根岸雅史先生は言います。しかし残念なことに、生徒もそして指導をする教師も、その後の学習や授業に、テストを活かしきれていないのが現実のようです。その原因として、先生は次の2点を挙げます。

①生徒は返された答案を見たくない
 とりわけ点数がよくなかった答案は、できるだけ早く忘れてしまいたいのでしょう。先生が一生懸命、丁寧なコメントを書き込んでも、生徒が読まなければ、間違いの原因は理解されず、学習に役立てることもできません。

②定期試験には構造上の課題もある
 発音、並べ替え、単語、穴埋め、読解、総合問題...。複数の要素がゴチャゴチャ詰め込まれた英語のテスト。そのテストを作る先生たちは、どこまで合理的な根拠をもって、各問題の配点を考えているでしょうか? 全体的な設計がなされていないと、ある生徒が70点をとったとして、それがどういう意味をもつ70点なのか、正しく解釈できません。「もう少しテスト目的を反映した、構造がわかりやすいテストを作るべき」だと根岸先生は言います。

同僚教員とも定期試験の振り返りを

生徒だけでなく、教師もまた、試験の結果を十分活かしていない。これはどういうことでしょうか。
「若い頃、私は自分がまだ完全に理解していないことを、授業で説明したことがあります。当たり前ですが、そのあとのテストでは、生徒のできも良くありませんでした。このように、多くの生徒がテストで間違った箇所には、しばしば、指導上の問題や教材の問題が隠れています。先生はテストの採点が終わったら、もう一度、自分で問題を振り返ってみましょう。『今回はここが定着していなかったな』など、いろいろ発見があると思います」
できれば同僚教員と一緒にテストを振り返ると、問題点が見つけやすくなるとのこと。英語なら、ALT にテスト問題を見てもらうのも一案です。自分では当たり前の問題を出しているつもりでも、「ここは英語自体が少しヘン」「この問題の答えは2つあるよ」「この問題を出した意図は何?」などと、ネイティブスピーカーならではの鋭い指摘に、ハッとさせられるかもしれません。

大規模テストのフィードバックは情報の宝庫

大規模テストのフィードバック事情については、高校の現場でよく使われる、日本の英語力テストの例が取り上げられました。
英検の成績表には、どの種の問題でどの程度得点できたかや、分野別の評価が書かれており、技能ごとの弱点も把握できます。学習アドバイスも書かれています。GTECの場合は、テスト結果はスコアレポートとしてフィードバックされ、CEFR-Jのレベル、技能バランス、スコア推移などの情報を知ることができますし、技能ごとのスキルアップ・アドバイスも盛り込まれています。
「TOEIC® L&R Test、TOEFL® iBT Test、IELTS™ でも同様で、今の大規模テストは一昔前とは比べ物にならないほど、フィードバックの情報量が豊富です。学校単位で受験するテストでは、学校にフィードバックがありますが、せっかく情報満載のフィードバックが届いても、先生たちはあまり見ていないようです」
情報が詳し過ぎたり、テクニカルに過ぎたりで、よくわからないという意見もあるそうですが、テスト結果がもたらす貴重な情報が、学習、指導、授業づくりに活かせないとしたら、もったいないことですね。

テストを組み込んでPDCAを回そう

そこで講演の後半は、テストを活かすためのヒントへと進んでいきます。まとめると次のようなことです。

①テストの採点済み答案や、外部テストのフィードバックに、生徒が目を通していることを確認します。答案にコメントを書くだけでなく、先生が口頭で説明するほうがわかりやすいことも。

②テスト結果をクラスで一緒に振り返ってみるのも有意義です。具体的な解答例を取り上げて共有し、どこが間違っているか、どう直すとよいかなどを話し合います。

③クラスでの振り返りを踏まえて、間違った問題を個人でやり直してみるよう指導します。

④教師自身もテスト結果を参考に、学習と指導の目的を確認し、今後の学習・指導計画を立てましょう。PDCAに当てはめると、テストは CHECKに当たります。その結果をもとにACT(改善)へとつなげ、PDCAサイクルを回していくイメージです。

⑤定期試験の問題作りでは、結果の解釈が可能なテスト構造を持ったものにすること念頭に置きましょう。1つの大問で、「英語の知識」と「英語を使う力」の両方を問う、あるいは、目の前の学習者の能力レベルへの配慮なしに複数の技能を問うといった出題は、おうおうにして評価の解釈を難しくします。

生徒が受験した英語の外部テストのフィードバックに、「概要・要点を汲み取る力が弱い」と書かれているのを見たある先生が、「詳細に読み取る力をもっと付けさせなければ」と発奮し、訳読を更に強化したそうです。これは少々見当違い。だからこそ「英語教師には、第二言語習得の基本的な知識が必要」だと、根岸先生は言います。
少なくともアセスメント・リテラシーを高めることで、テスト結果から正しく情報を読み取り、的確に指導に活かせるようになると根岸先生は指摘します。健康診断の結果をもとに、健康増進に向けて医師と患者が話し合うように、教師と生徒も、また教師間でも、テストをめぐってもっと話をしたいものです。


(文・構成:田中洋子)

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