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セミナーレポート
学生が主体的に学ぶ姿勢を引き出す、
松本大学の英語教育

大学や企業において、グローバル化が進む社会で活躍できる人材の育成が大きな課題の一つとなっています。こうした情勢を踏まえ、新たな英語教育をスタートさせた松本大学(長野県)の取り組みを紹介します。


講演「新学部設立とeラーニングを活用した英語教育の成果と課題」
【日程】 2019年6月21日
【場所】 タイムオフィス名古屋
松本大学 教務課 上條直哉氏


大学における英語教育のあり方とは

松本大学は長野県にある私立大学で、地域社会に貢献できる人材の育成を大学の使命・目的に掲げています。総合経営学部、人間健康学部、教育学部の3学部と、短期大学部があり、現在2200名ほどの学生が在籍しています。甲信越エリアには私立の教育学部がなく、特に英語力を有する教員を育成してほしいとの地元の教育委員会からの要請もあり、2017年に教育学部を新設しました。これをきっかけにスタートした新たな英語教育について、教務課の上條直哉氏にお話いただきました。
「本学における英語教育について、最もお伝えしたいのは考え方です。学生が主体的に取り組める仕組みをいかに作っていくかが非常に大切だと思っています。学生の学修意欲を引き出し、それを継続させることは、教育現場でもなかなか困難です。新たに導入したeラーニングは、学生が意欲的に学ぶ力を身に付けさせるための手法の一つになると我々は考えています」。
大学入試改革、新学習指導要領の実施など、大きく変化しつつある教育現場を取り巻く状況を鑑み、大学での英語教育はどうあるべきなのかを考え、松本大学ではeラーニングを中心とする新たな英語教育を導入しました。企業、地域、保護者、学生のニーズを踏まえながらも、大学全体の教育目標を達成するために英語教育を通じて学生にどんな力を身に付けさせ、何を果たしていくのかを大学側がしっかり考えることが重要であると述べました。

重要なのは、英語教育を通じて学生に何を身に付けさせるか

「グローバル化が進む一方で、今の学生の傾向を見ていると、英語に苦手意識を持ち、グローバル化への関心が低い学生は少なくありません。そうした学生にどのような意識づけと学修環境を提供するかが大学にとっての大きな課題です。また、1年生時の成績は4年間のトータルの成績と強い相関関係にあり、1年生の初めにつまずいた学生はその後も学修に自信を持てないままという状況が見受けられます。これらの課題に対応するために英語教育にeラーニングを導入しました」。
特にeラーニングは、入学前教育や初年次教育といった時期のカリキュラムに対して有効であると、上條氏は言います。スマートフォンで簡単に操作でき、主体性・継続性が高いツールであるため、学修意欲の喚起や、学修の定着に役立ちます。また、学生の進行状況がリアルタイムで把握でき、データを活用して事後分析に使いやすいなど、大学側には管理しやすいメリットもあるそうです。
さらに、「英語教育は少人数クラスかつ、ペアワークやアウトプット中心の授業が盛んに行われています。そのため、学生が主体的に学ぶ姿勢を身に付け、思考力・表現力といった知識以外の"見えない学力"についても高めるのに優れた教科だといえます。 英語教育を通じて、学生が何を身に付けるのかというと、思考力や表現力、主体的な学修習慣、好奇心などが挙げられます。もちろん語学力も身に付きますので、苦手だったものを克服したという成功体験を得て、自信を付けて社会に出て行ってもらいたいと思います。こうした教育活動は、学びに向かう意欲を育てることにつながり、他の教科にも良い影響を及ぼします」。

主体性・継続性も養える、eラーニング

松本大学がeラーニングで利用しているのは、ALC NetAcademy NEXT(ASP版)の「TOEIC® L&Rテスト 500点・600点・730点突破コース」と「英単語パワーアップコース TOEIC®テスト編」の2コース。レベルは初級から上級まで対応しているので、英語が得意な学生も苦手な学生もどちらもしっかり取り組めます。両コースは主に、入学前教育と、授業外の事前事後学習に活用されているそうです。
「入学前教育では、教育学部の推薦・AO入学者を対象に、「英単語パワーアップコース TOEIC®テスト編」(初級)の全152ユニットと確認テストを修了させます。かなりボリュームがあるので、計画的な学修を促すことで主体性・継続性が鍛えられます。スクーリングも実施して進捗状況を確認するなど、大学側がしっかりフォローしながら最後までやりきるように進めています」。
授業外の事前事後学習については、課題修了のチェックを学生同士で行います。これは、教員がチェックするより、学生同士で行う方がやらなければいけないという気持ちが働き、効果があるのだそうです。課題を終わらせることが目的にならないよう、パートナーと課題の中から問題を出し合う時間を設けているといいます。人に説明することで学修効果を上げるのが狙いです。
「授業の中で、『Kahoot』や『Quizlet』といったアプリも使っています。早押しクイズのように競わせたり、グループで解答したりといった形で活用しています。授業に飽きさせない工夫として、学生の評判も良いです」。
教育学部1、2年生124名を対象にしたアンケートの結果を見ると、60%が自宅、30%が大学での空き時間や移動中にeラーニングで学修しています。一回の利用時間は、半数が10~30分、40%が30分~1時間未満でした。
「利用時間が少ないと思われるかもしれませんが、私はこのぐらいでいいのではないかと思っています。集中力はそんなに長く続きません。継続性という面から考えると、短い時間でコツコツ続けていく方がいいのではないでしょうか」。

きめ細かな学生へのサポートを実施

英語学修をサポートする教育体制も整えました。まず、初回の英語の授業前には、全学生がロードマップを作成し、一人ひとりが目標設定を行います。ロードマップには、一週間の学修スケジュールや内容を計画する他、現状の英語力を把握するために自分の強み・弱みを自己分析して記入します。そしてTOEIC® L&R テストの目標スコアを設定し、半期ごとに学びの振り返りができるようになっています。
「目標スコアと卒業後の夢や目標について書かせた上で、目標スコアに到達すればその夢はどう変わるかという設問を設けています。これは目標に到達することで、英語力を生かした夢が加わり、将来の可能性がさらに広がるということを頭の中に認知してもらいたいからです。メタ認知を通して自己の思考プロセスや課題などを客観的に捉え、主体的学修することが大切だと思っています」。
授業は通常、ペア、グループワークなど参加型のスタイルで進行します。現場教員の実感として、学力差のあるクラスほどグループワークが有効だと言います。理解度の高い学生は知識の定着が図られ、そうでない学生には理解を促すという効果が表れているのです。また、コミュニケーションが苦手な学生を教員がすぐに把握でき、フォローも可能です。 「初年次の英語科目は必修の授業が多いので、出欠管理など学生との教職員と学生のコミュニケーションも大切です。課題の提出や振り返りの報告など、さまざまな機会に『LINE@』を活用しています。携帯で音声を吹き込めばスピーキングの課題をそのまま提出することもできます。今後は『Office365』の活用も検討しています」。
英語の授業では、リフレクションも重視しています。リアクションペーパー(大福帳)を活用し、毎回の授業について、自身の学びを振り返り、教員への要望があれば記入してもらいます。教員の振り返りにも活用されるそうです。
「中間カウンセリングという手法も取り入れています。まず中間テストとしてフルサイズ模試を実施し、ABILITIES MEASUREDを算出します。その結果をもとに期末IPまでの学修方法のアドバイス、はじめに作成したロードマップの振り返りなど、教員との面談を学生一人一人に対して行うことで、学生を最後まで導きます。期末IPの結果が出た後は、半年、1年の学修内容を振り返った後に、次年度の目標設定を進めていきます」。
アセスメントについては、TOEIC® L&Rテスト、GTECを定期的に受験する機会を設けているとのこと。留学希望者を中心に、TOEFL®iBTテストを受験する学生もいます。

学長から非常勤講師、そして職員までが一丸となって、より良い英語教育を

地方大学にとってグローバル化は好機ととらえて、教育に取り込んでいくことが大切なポイントであるといいます。
「グローバル化をただやってみようではなく、学生の成長にどうつなげていくのかが重要です。つまり、英語教育で何を目指すのか、何をどのように達成するのかを具体的に示すこと。そして、カリキュラムの質を高めていく必要があります。例えばKPIマネジメントなどの手法を使い、現場の教員から経営層まで全員が同じベクトルに合わせて目標とする数値を達成していかなければ真のPDCAサイクルは回りません」。
特に英語教育においては、教員の力が重要だといいます。というのも、少人数で授業を行うと多くの教員が必要になりますが、教員が別々の授業をしているとカリキュラム上の目標を達成できません。複数クラス間での授業内容の調整が必要ですし、学生の学修状況の確認など、教員には幅広い業務と役割が求められるのです。
「もちろん教員に任せるだけでなく、職員側が教員をサポートする体制を整えています。普段から協力関係をきちんと構築して、学生情報や授業満足度、そして学修成果のフィードバックをしっかりしていくこと。さらに、教員が教えやすい環境づくり、指導の質の向上に結びつくような取り組みもしていかなければ教学マネジメントは成立しません」。

こうした新しい英語教育の取り組みによって、どのような成果が出ているでしょうか。教育学部1期生の入学1年半後のCEFRでは、1年生前期にB1以上が10%強、A2以下が90%近くだったレベルが、2年生後期にはB1以上が約70%、A2以下が約30%となりました。順調な英語力の伸びが見られます。
確固としたビジョンのもとに実施された英語教育によって、着実な成果が上がることが示されました。

(文・構成:溝口葉子)

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