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セミナーレポート
大学のグローバル化 情報交換セミナーVol.23

「新しい時代の英語教育を、共に考える。」

教育現場では昨今、英語を「聞く」「話す」「読む」「書く」力をバランスよく身に付け、コミュニケーション力を育成する教育に力を入れています。大学における英語教育の在り方も同様です。アルクではこうした時代背景をとらえ、大阪大学と関西大学において先進的な英語教育に取り組む先生をお招きし、「大学のグローバル化 情報交換セミナー Vol.23」を開催しました。当日の模様をご紹介します。


【講演者】
第1部 「新しい時代、新しい英語教育 ―阪大カリキュラムのミッション―」
   大阪大学 マルチリンガル教育センター 教授 小口一郎先生

第2部 「『音読活動』再考 ―『活用する力』を育む観点から―」
   関西大学 外国語学部 学部長 竹内 理先生

【日程】2019年12月1日
【場所】ハービスENT貸会議室(阪神梅田駅・JR大阪駅)

「完全eラーニング授業」というチャレンジ

第1部「新しい時代、新しい英語教育」では、大阪大学マルチリンガル教育センターの小口一郎先生にご登壇いただきました。同センターは2018年4月に開設。言語教育改革の継続的な推進を目指して、学生の英語力を抜本的に強化する教育プログラムを開発・実施しています。

「英語教育を取り巻く環境の変化は、まさに激動と言えます。大阪大学でも時代を先導するような取り組みを推進しなければならない、という思いでカリキュラムを変革してきました。その中で今、直面している課題も含めて、今日は皆さんと共有し、今後のヒントとしていただきたいと思います」と小口先生。

マルチリンガル教育センターは、従来型の英語教育から、より発展的な言語教育へと改革をはかり「語学力でグローバルプレゼンスを確立する」という目的を掲げスタートしました。

「第一段階で私たちが取り組んだのは、大学における英語教育の新カリキュラム導入です。本学には大学院へ進学する学生も多く、『アカデミックイングリッシュ能力の高度化』にフォーカスした改編に着手しました。具体的には、全学部生の必修単位を8単位に拡大し、『実践英語(2単位)』『総合英語(6単位)』というカリキュラムに変更。実践英語は完全eラーニング型の授業を採用しました」。

全学部横断でeラーニングを導入することにより、大幅な教育リソースの効率化に成功したと語る小口先生。一方で、その取り組みには多くの課題を解決しなければならなかったと言います。

「一口に単位を増やすといっても、教室や教員の数など限られたリソースの中で考えていくのは至難の業です。しかし、私たちはeラーニングの導入によって、後ほどお話しする総合英語のクラスサイズを少人数化。結果、教員が学生一人一人の学習をより手厚く支援・指導できる環境に改善できました。一方、1学年約3400人を対象にしたeラーニング授業の整備は大変でしたが、今年入学した1年生はすでにこのカリキュラムでおおむね滞りなく実践英語を履修しています」。

実践英語は、全ての学生がパソコンを利用して自律的に学習するスタイルをとり、教材内容から毎週出題される小テストに解答し、期末テストとしてTOEIFL ITP(R) テストを受験します。ただ、いくら大学生とはいえ全員が主体的に授業にのぞむことは難しい面もあるそうです。小口先生は、運用において学生に学習を促す必要があったと言います。

「私たちが導入した学習システムは、プレイスメントテストによって所属コースを3つのレベルに分け、上位のレベルにはスタンダードな課題を課し、一方、中位、下位レベルの学生の場合は『学習リピート機能』を適用し、反復学習させる仕組みを取りました。

カリキュラム前半を終えて、全学生をモニタリングすると順調に学習できている学生は全体の約35%。まだ初年度なので満足のいく数字ではありませんが、改善を続けて彼らの英語学習を効率的に向上させることが私たちのミッションです」。

グローバル人材を数多く輩出できる大学を目指して

総合英語のカリキュラム改編でも、実践英語のeラーニング導入によって生まれたリソースを活用した授業の変革に取り組みました。

「総合英語の改編は、私たちのチームの若い教員が意欲的に取り組んで生み出したもので、従来よりも大幅に学生のニーズに対しイミディエイト(直接的)な教育ができるようになったと思います。総合英語は『プロジェクト発信型(英語での発表)』『コンテント中心型(英語で学術を学ぶ)』『リベラルアーツ&サイエンス』『パフォーマンスワークショップ(英会話力の向上)』『アカデミックスキルズ(英語で学術情報の収集や思考法を身に付ける)』という5つの種類に分かれ、それぞれが異なるアプローチをとり、特色ある授業内容で学生の能力を伸ばします」。

この形に至った背景には、学生が近い将来必要となる、学術的実践に役立つスキルを育てたいという目的がありました。

「4技能をそれぞれ個別に学習するのではなく、研究やビジネスなどで『使える英語』を習得するために、目的を持って学ぶための環境を充実させたいと考えました。当然、従来型の授業ではなくなる分、教える側も授業への取り組み方を変更しなければなりません。大変な面もありますが、これらを軌道に乗せ、グローバルステージで活躍できる人材をより多く輩出できる大学になることを目指します」。

音読は、過去の遺産か?

第2部「『音読活動』再考」では、関西大学外国語学部の竹内理先生が、コミュニケーション中心の授業展開において位置づけの難しい「音読」の活用について焦点化し、お話しされました。

「今後、新しい指導要領で学んだ中高生が、皆さんの高校や大学に入学してきます。そこで、どんな風に教え方が変わったのか、知っておかれても良いと思います。

私が着目したのは、従来の中等教育で活用されてきた英語の『音読』です。ある調査によると※、授業で音読を『よく行う』と答えた高校は79.8%。中学校は88.2%と非常に活用されていることが分かります。一方で、今後の指導要領では機械的な反復練習ではなく、思考力や判断力が身に付き、より将来活用できる英語教育を推進していく方針です。そうなれば、広く浸透してはいるが、従来のいわば『読むだけ』の音読の意味は薄れていくでしょう。

そこで、改めて『音読』にはどんな意味があり、どのように発展的な授業をすることができるのか。ぜひ隣の方と話し合ってください」(竹内先生)。

「音読の定義は?」「音読のメリット、デメリットは?」と先生が投げ掛ける質問に、参加者は意見を交わします。「音読とは視覚に対応させて発音すること」「正しい発音を身に付けるために必要なプロセス」「音読すると授業が活性化する」など、多種多様な答えが飛び出し、音読の重要性について再確認する貴重な機会となりました。

「さて、お分かりのように一口に『音読』といっても、実に多様な意義があることが分かりました。音読をすることで『理解が深まる』『発音が改善される』『文字と音を結び付けて覚えられる』。一方で、『機械的に読んでしまう』『間違った発音が定着してしまう危険性がある』『英語を読むのが恥ずかしい(音読不安)』などの課題も多く残されています。これらを踏まえて、これからの音読活動のあり方を考えて行きましょう」。

創意工夫で生まれ変わる「音読」の可能性

「続いて、中学校の教科書New Crown English Series 2 (三省堂)から一文を取り上げて、参加者全員でさまざまな手法を取り入れた音読を実践しました。

「音読はちょっとした創意工夫によって、さまざまな能力をトレーニングできるものに変わります。ここに12種類の音読プログラムを用意しました。従来のモデルリーディング、コーラスリーディングに始まり、ペアになって登場する2者を演じ合うペアリーディング、相づちを打ち合うリスポンスリーディング、最後に一文を追加するプラスワンリーディングなど、音読手法はどんどん発展させられます。生徒は口だけでなく、目も、耳も、頭も使って複合的なトレーニングをすることができるのです。

新しい学習指導要領では、単にインプットを入れるだけの学習や機械的に繰り返す(repetition) だけの学習ではなく、目的・場面・状況に応じて頭を使い変えていきながら繰り返す (iteration)学習や 、インプットしたものをどのようにアウトプットできるか企図しながら行う学習を重んじた内容に変化していきます。その変化に対応した効果的な学習方法として、 音読はまだまだかなりのポテンシャルを秘めたものだと言えるでしょう」。

参加された大学教員の方々にとって、他大学の創意工夫や中等教育のトレンドに関する情報は非常に新鮮だったようです。授業のよりスムーズな運営、効果的な指導方法、学生の学習意欲の向上など、それぞれが抱える課題のヒントを得ようと講義に集中されている姿がとても印象的なセミナーでした。

※ベネッセ教育総合研究所「中高の英語指導に関する実態調査 2015」

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