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セミナーレポート
明治大学「共同的な学びを促す教育実践のデザイン」

2021年1月22日、「大学のグローバル化 情報交換セミナー Vol. 29」がオンラインで開催されました。
このセミナーは英語教育やグローバル人材育成に携わる方々、またそれらにご関心の高い大学関係者の方々を対象に、アルク主催で行っているものです。

29回目となる今回は「共同的な学びを促す教育実践のデザイン」と題し、明治大学国際日本学部の廣森友人先生にご講演いただきました。当日の模様をレポートします。



講演者:廣森友人 先生
明治大学 国際日本学部 教授

「ペアを組みさえすればいい」わけではない

中高大を問わず、英語の授業ではペアワークやグループワークが頻繁に採り入れられています。しかし、ただペアにするだけ、グループにするだけで、効果的な学びが得られるのでしょうか。 講演では、共同的な学びの中で実際にはどのようなことが起きているのかを知るため、廣森先生の研究グループが実施した2つの調査結果が報告されました



ペアワークに関する調査では、必修英語4クラス(初中級レベル)の日本人大学生100名(女性42名、男性58名)を対象に、2クラス50名はペアワークで、残りの2クラス50名は個人で、同じ写真描写タスクに取り組んでもらいました。そして、その内容を行動的側面(課題の取り組み時間/英作文のワード数)、言語的側面(英作文のスコア)、情意的側面(課題に対する態度)という3つの側面から分析しました。

調査の結果、「課題に対する態度」ではペアの方がより肯定的だったものの、それ以外の項目では、ペアワークと個人との間にほとんど差が見られなかったそうです。「ペアを組んだ方が個人で取り組むよりもいい成果が出る」とは、必ずしも言えない結果になりました。

興味深いのは、英作文のワード数が増えた場合、個人ではスコアも上がったのに対し、ペアワークではそのような傾向が見られなかったことです。「ペア間でどのようなやりとりをしたかで、作文の内容が大きく変わった可能性があります」と、廣森先生。実際、「スペルについてばかり話し合っている」「作文のワード数を増やすことにばかり注力している」といったペアも見られたそうです。また、やりとりがうまくいっていなかったペアには、①協力・協働的ではない、②(協力・協働的ではあるものの)活動の目的が理解できていない、③お互いに受け身的である、という3つの特徴が見られたといいます。

「大切なのは、生徒たちの間にペアワークを行う風土があること、ペアワークの意義・目的が共有されていること、活動をリードする存在がいること。ペア間でどちらがリードするかを決め、役割交代などを行いながら実施する方法もよいのではないかと思います」と、廣森先生は話します。

グループワークを活性化させるために

グループワーク研究においては、「リーダーシップ」が中心的テーマの一つとなります。
廣森先生の研究グループは、「リーダーの有無がグループワークにおけるメンバーの動機づけやグループダイナミクスに与える影響を明らかにする」ことを目的に調査を実施。日本人大学生90名(女性50名、男性40名)を対象に、初中級レベルの必修英語5クラスを3クラスと2クラスに分け、前者では事前にリーダーを割り当て、後者では割り当てることなく、3人1組のグループワークを行ってもらいました。タスクはペアワークと同じ写真描写で、グループ内で協力しながら一つのテキストを作ります。


終了後にはアンケートを行い、各学生に「活動中の動機づけの変化」を数値で示してもらいました。また、活動中にグループワーク・ダイナミクス(GWD)がどのように変化したかを調べるため、「リーダーシップを示す」「肯定的な発言をする」「メンバーに助け船を出す」など、GWDに影響を与える行動をリスト化。項目ごとにポイントを設定して重み付けを行い、活動中のやりとりを後日分析して「GWDスコア」を算出しました。

その結果、「動機づけ」そのものについては、リーダーの有無による有意差は見られなかったそうです。ただし「動機づけの変化」を見ていくと、リーダーありのグループは開始時の動機づけと終了時の動機づけの相関が高かった(=活動中の動機づけ状態が比較的安定して維持されていた)一方、リーダーなしのグループでは、そのような相関は低かった(=動機づけ状態が活動の前後で大きく変化していた)ことがわかりました

GWDスコアについては、「リーダーありのグループが高く、なしのグループは低い」とは必ずしも言えないものの、その傾向は見られたといいます。リーダーなしでもGWDスコアが高かったグループでは、「リーダーを割り当てなくとも自然にリーダーシップを発揮したメンバーがいた」「メンバーそれぞれがバランスよく高スコアだった」などの要因から、グループワークが活性化していた様子が伺えました。

「リーダーがcatalyst(触媒)となってダイナミズムを作り出すことは可能だと思います。ただ、リーダーを割り当てさえすればうまくいくというわけでもありません。リーダー役には事前にGWDリストを見せ、こうしたことを活動の中でたくさん行ってほしい、と伝えるのもよさそうです」と、廣森先生は話します。

「共同的な学びを促すには、関係性、目的意識の共有、役割分担ができているかといったことが重要です。教師が生徒一人ひとりのやる気を高められることが理想ではありますが、必ずしも理想どおりにはいかないこともあります。そうした状況の中、学習者同士がお互いに協力しながら学び合っていく風土があるかないかが、非常に重要になるのではないでしょうか。
今回ご紹介した研究は、コロナ禍の前に行ったものです。現在、オンライン授業についても調査を進めていますが、対面授業に比べてGWDスコアが少なからず下がるという結果が出てきています。オンラインで活動を行う際には、対面時以上に、いろいろな工夫や仕掛けを入れて授業を運営していく必要がありそうです」。廣森先生がこのようにまとめ、講演が終了しました。

Q&Aセッション〜協力的な風土を作るポイントなど

講演後のQ&Aセッションでは、参加者の皆さまから多くのご質問が寄せられました。その一部を、一問一答形式でご紹介します。

Q. グループワークにおいて、リーダーはどのように選出するか。
廣森先生:今回行った調査では事前にアンケートを行い、①英語力に対する自己評価が高い、②英語学習に対する動機づけが高い、③(日ごろの授業観察から)リーダーを任せても大丈夫だと担当教員が判断した、の3つの基準を満たす学生を抽出した。
Q. 学力、向上心が高い学生で一人を好む場合がある。協力的な風土を作る上でのポイントはあるか。
廣森先生:動機づけが高く一人で取り組めるために、ペアやグループワークを好まない学生は確かにいる。逆に動機づけが低く英語が苦手な学生にとっては、友人をロールモデルにしながら活動に入っていけるメリットがある。やる気があり英語力が高い学生にはなるべくリーダーになってもらうなど役割を与えることで、お互いにwin-winの関係で取り組めるのではないか。

教材デモと事例紹介

最後に、アルク担当者より、英語学習や留学実現をサポートする「英語学習アドバイザー」「留学アドバイザー」をはじめとする事業の紹介があり、セミナーが終了しました。

取材・文:いしもとあやこ

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