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コロナ禍を経て留学プログラムはどこに向かうのか
~関西大学外国語学部のカリキュラム改編~

7月28日に関西大学の今井裕之先生をお招きし、「コロナ禍を経て留学プログラムはどこに向かうのか ~関西大学外国語学部のカリキュラム改編~」というタイトルで講演をしていただきましたので、その一部をご紹介いたします。

今井先生のご専門分野は、授業研究、教師教育、スピーキング評価などの英語教育学で、研究を通じた学校英語教育の理解深化がライフワークとなっていらっしゃいます。小中高の英語教科書編集にも20年以上携わっていらっしゃり、現在の関心は、新学習指導要領下で学んだ高校生が入学してくる2025年以降の大学英語教育の在り方とのお話でした。

ご講演では大きく下記の4つの項目について発表していただきました。

  1. 英語関西大学外国語学部のカリキュラム:留学必修のメリット・デメリット
  2. 留学プログラムの課題:コロナ禍の経験から学んだこと
  3. 社会環境の変化への対応:留学プログラム・カリキュラムの改編
  4. 留学プログラムは有効か:外国語運用能力評価の結果からわかったこと

今井先生は最初に、関西大学外国語学部におけるカリキュラム、特に必修となっている留学プログラムについて紹介してくださいました。

外国語学部では2009年の学部創設以来1年間の留学を必修としており、留学するのは2年次の1年間の中で9 ~11か月の期間となっています。
派遣先は世界各地で17大学に及びます。そのうち英語圏が10大学、中国が2大学 、ドイツ、フランス、キルギス、韓国、台湾が各1校で、現地言語と英語の2言語を習得するプログラムとなっています。また北京外国語大学とはダブル・ディグリー・プログラムも実施しています。
留学時の単位認定は40単位を上限としており、大学ごとに設定された履修科目を全て単位取得できれば、40単位が認定されます。
学部定員は165名で、人数だけ見れば決して大きな規模ではないものの、やはり165名全員を留学させるとなるとそれ相応の対応が必要となり、負担も大きくなるとのお話がございました。

実際にこの留学プログラムを支える運営体制としては、次のようになっています。

  • 留学プログラムデザイン/学生指導 ⇒ スタディ/アブロード委員会
  • 学内外の手続き ⇒ 学部オフィス、教務センター
  • 留学手続き/相談/支援 ⇒ SA センター(株式会社留学ジャーナル)

スタディ・アブロード(SA)委員会は10名を超える組織で、現地大学との交渉などを行うSA交渉担当部会と、留学前後と留学中の学生支援などを行うSA学生担当部会で構成されています。
そして、学費、奨学金、単位認定手続きなどの諸手配は学内で学部オフィスや教務センターのスタッフが担い、ビザ取得や留学中の相談といった対外的な手配は(株)留学ジャーナルから派遣された2名のスタッフが対応しています。

続けて今井先生は、留学を必修とするこのカリキュラムについて、そのメリットデメリットを紹介してくださいました。

まずメリットとして挙げていただいたのは、縦積構築型のカリキュラムとなっているので一斉指導やガイダンスがしやすい、という点です。さらに目標や見通しを学生と教員が共有しやすいという点も挙げていただきました。

反対にデメリットとしては、状況に応じて柔軟に変更することが難しいこと(特にコロナ期に実感したとのこと)、縦積み式のため1年次の学習習慣が重要となること(例えばもし1年次前期で単位を落とすと留学資格を失うことになり、2年次に留学できずもう1年やり直しとなることが入学後半年で決まってしまう)、留学前後の学習意欲維持が難しいケースがあること(留学先の17大学の中で、必ずしも全員が希望する大学に行けるわけではない)、また既往症や国籍など、プライバシーを含む情報を全員分把握する必要がある点なども挙げてくださいました。
先生もあえてデメリットという単語を使ったとおっしゃっていたように、この「デメリット」は今後の課題というニュアンスに近いように感じました。

続けて、コロナ禍の経験から学んだこととして留学プログラムの課題について紹介してくださいました。

関西大学外国語学部では、コロナ禍でも現地留学を基本方針とし、実際に2019年でも60%は現地へ留学、2020年には100%現地留学を実施しました。入国不可となっているエリアについてはオンライン留学に切り替えたり、留学時期をずらしたりするなどで調整を行いました。学生の中にはオンライン留学を避けたいというケースも見られましたが、オンライン留学も価値あるプログラムであることを説明したとのお話でした。一方で、結局現地に渡航してもロックダウンにより現地でオンライン授業になってしまったケースもあり、そのような場合は早期帰国することを了承しました。このような対応に日々追われたのが2020年だったと、今井先生は当時を振り返っておっしゃっていました。

次に、ロシアとウクライナの戦争などの世界的な事象も含めた昨今の社会環境の変化を踏まえた今後の対応について、お話しいただきました。

関西大学外国語学部では、「2019以前には戻らない」という強い意志のもと、学部内で若手の先生方も含めたチームを作り、ポストコロナに向けたカリキュラム改定について検討を始めていました。
検討の際は、昨今のオンライン・コミュニケーションの常態化、世界的インフレ、長期的な円安、日本経済の低迷、留学意欲や英語学習意欲の下降傾向、機械翻訳やAI の技術発達に伴う外国語習得方法の多様化や習得意欲・意識の変化などなど、さらに青年期の3 年間をマスク姿で過ごした学生気質の変化、、、といった項目、事象、社会情勢を考慮に入れたとのお話です。

そして、実際に行ったカリキュラム改訂のポイントは次の4点です。

  • 専門分野教育強化による4 年間の継続的探究
  • ゼミを選択化し、留学期間・タイミングを柔軟化、これにより3~4年次にも留学を可能とする選択肢を作った
  • 授業の中で実施するために1年次の留学準備科目を追加し、異文化適応・危機管理、留学先のリサーチや留学計画を立てるなどして、留学生活が安全、充実する準備を強化した
  • データサイエンス科目の追加

さらに、学生や家族へのサポートとして以下のような対応も行いました。

  • 学生対象に加え、保護者対象のZoom 説明会を強化
  • 留学先の受け入れ体制の継続的改善
  • 外部奨学金の継続的な獲得に加え内部の給付・貸与制度の対応強化

そして最後に、1年間海外に渡航するというプログラムは本当に有効なのか、という振り返りと検証として現在のお考えを共有してくださいました。

その際にご講演では、入学前、留学前後、卒業前に4回実施しているTOEFL ITP試験や留学前後で実施しているアルク社のTSST(電話によるスピーキングテスト)の推移をコロナ前後で比較した結果にも触れていただきました。
そしてそれらの検証結果を踏まえ、オンラインも状況によってはありうるが、基本的には渡航型の留学をするという原則、留学時期や期間を柔軟化していくという方向性、そして経済面、生活面での支援の必要性を今後の改善の軸として紹介してくださいました。

以上、関西大学外国語学部教授、今井裕之先生のご講演の概要でした。
改めてご講演の詳細について知りたいという方がいらっしゃいましたら、アルクエデュケーション文教営業部 academy@alc.co.jpまでお気軽にお問い合わせください。

(文・構成:文教営業部 森山光)

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