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活用事例(2)~連載~ (2018年12月)

活用事例

北海道大学N北海道大学大学院における博士課程外国人留学生への キャリア形成支援について②

飯田良親先生

前号に続き、北海道大学人材育成本部における外国人博士課程留学生へのキャリア支援策についてご紹介します。人材開発において、T字型人間を目指せ、と言われることが多いです。自分の専門分野をTの字の縦棒、専門以外の普遍的な能力、例えばマネジメント力、コミュニケーション力、リーダーシップなどを横棒になぞらえています。優れた研究人材になるには、縦棒、即ち専門分野の深堀りに加え、幅広い横棒の能力(これを移転可能な研究力と呼びます)をつけることが望まれています。専門分野の研究力は、主として指導教授の下での研究活動を通じて養われます。むろん、研究活動の中でも博士課程の学生は学部生や修士学生への指導などを通じて、マネジメント力、コミュニケーション力、リーダーシップなどを養うことは出来ますが、特に企業でのキャリアを希望する学生にとっては、より幅の広い移転可能な研究力、例えば自己管理能力、プレゼンテーション力、ビジネスコミュニケーション力などが求められます。

幅広い研究力の定義

 昨今は大学の研究者といえども企業との共同研究や、産学連携事業などを通じて企業と円滑な関係を築く力が求められていて、アカデミアに進むことをキャリア目標にしている研究者にとっても、これら移転可能な研究力の強化は重要になっています。実際、英国で半世紀にわたる研究人材育成の実績をもとに産官学の見識を取り入れたNPO団体が作成した、VITAE研究者能力開発フレームワーク(日本語版を科学技術振興機構のJREC-INポータルより引用:https://jrecin.jst.go.jp/seek/SeekVitaeInformation)では、優れた研究者に求められる能力を分かりやすく整理しています。具体的には:

■ドメインA:知識と知的能力
   A1:知識基盤
   A2:認知的能力
   A3:創造性

■ドメインB:個人の能力
   B1:個人の資質
   B2:自己管理
   B3:能力開発・キャリア開発

■ドメインC:研究の管理運営
   C1:専門家としての行動
   C2:研究管理
   C3:財務、資金調達、リソース

■ドメインD:エンゲージメント、影響とインパクト
   D1:他との協働
   D2:コミュニケーションと普及
   D3:エンゲージメントとインパクト
(日本語訳は前出JREC-INポータルによる)

という風に大きな分類がなされ、それぞれの項目ごとに学生、ポスドク、ベテラン研究者といったキャリア成長に沿って、スキルやパフォーマンスに関するあるべき姿が定義されています。これらは全て研究活動を通じて獲得していくことを目指しますが、ドメインBやDの能力については、企業における人材育成とも共通する項目が多く、大学外にも専門的に育成プログラムを提供する企業、団体等が多く存在します。例えば、D1(他との協働)、D2(コミュニケーションと普及)の能力を拡充する上で、日本人と外国人が異文化コミュニケーションについて共に学ぶ、という体験は非常に有益だと考えられます。

異文化コミュニケーション演習

 研究室の中でも外国人留学生と日本人が共に学ぶ機会は増えていますが、今後海外の大学、研究機関や国内外の企業と共同研究する場面はますます増えていきます。その際に、日本人、外国人のどちらかが一方的に相手に合わせるのではなく、相互の違いを理解し、尊重しながら、共通の目的に向かって協力することが大切です。そして、双方が何に気をつけ、どのような考え方、行動をとることが望ましいか、ということを演習によって体得しておくと、実際にコラボレーションをする場面でとても有益だと思います。アルクには、この「異文化コミュニケーション演習」の研修プログラムがあり、本学では今年度初めてこれを全て英語で、日本人と外国人博士課程学生を対象に実施しました。使用言語を英語にしたことで、日本人参加者も日本語という自分の土俵を出て、自らを異文化の中に置くことができ、演習の目的をより深く理解してくれたようでした。

茶会の効用

 この異文化コミュニケーション演習とは別に、本学では外国人留学生を対象に毎年一度、茶会を催しています。裏千家の正教授とそのお弟子さん10人ほどにご支援を頂き、亭主と正客のやり取りや、掛け軸、一輪挿し、お菓子や茶道具、更には着物の柄や帯の表している「おもてなしの心」の意味まで、細かく英語で解説を行います。米国やドイツのように、異文化の人が集まる国では、相手と話をする際に、細かく説明をして誤解を生じないようにする傾向があり、これをローコンテクスト・コミュニケーションと言います。これに対し、日本人同士では常識や文化を共有している部分が多いため、細かいことを省略して話す、ハイコンテクストなコミュニケーションを行っています。茶会では、言葉に表さなくともおもてなしの心を相手に伝えることが出来る、という最も高度なハイコンテクスト・コミュニケーションが行われています。そこで、外国人留学生にこれを体験してもらい、「行間を読む」とか「以心伝心」を日本人が好むことの実例を見てもらいます。外国人にそれと同じことを期待するのではなく、外国人にはこのような日本人の癖を理解することにより、「分からないことは遠慮なく聞いて確認する」ことを奨励しています。加えて、茶会は日本的な習い事の伝承プロセスである「守・破・離」を説明する絶好の機会です。実際に留学生たちにはお茶を点てる体験もしてもらうので、「守」の難しさを学びます。そして、実は守破離は習い事に限らず、職場で仕事を学ぶ際にも、日本ではよく行われる、という事を解説します。海外では常識となっている、自分の担当する業務を明文化して示した「ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)」が日本では存在しない場合が多く、「先輩のやることを見て覚えろ」式のオン・ザ・ジョブ・トレーニングが外国人に対しても行われがちです。外国人が日本で働く上で、ハイコンテクスト・コミュニケーションの癖と、明文化されたジョブ・ディスクリプションの不備は、日本人側が注意して改善していくべき課題だと考えています。

 次回は英語だけで研究を行う外国人留学生に対して実施している、日本語習得のための支援の詳細についてお伝えしようと思います。




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