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アルク総研ニュース(2020年1月)

今月のテーマ記事

熊本大学ものづくりを通して国際人としての一歩を踏み出す
国際連携デザインキャンプ
<Curriculum Policy>


「国際連携デザインキャンプ」は、2010年に、熊本大学工学部と韓国・東亜大学との間で始まった。国の枠を越えた協働による「ものづくり」に対応できるエンジニアの養成を目指す国際交流プログラムだ。2016年からは、台湾の高雄第一科技大学(現「高雄科技大学」)も加わり、現在は3大学間で、ホスト校は1年ごとの持ち回りという形で実施されている。取り組みが始まったきっかけやプログラムの詳細、成果などについて、熊本大学でプログラムの運営・管理に携わる生野朋子先生に聞いた。

(写真)熊本大学工学部附属グローバル人材基礎教育センター特定事業教員の生野朋子先生

学生の負担を軽減して参加しやすいプログラムに

 日本、韓国、台湾の3大学から参加する学生が国際混成チームを作り、一つのテーマのもとで製品開発を行う「国際連携デザインキャンプ」。理工系学部、しかもアジアの大学との協働というユニークな取り組みは、どのようにして始まったのだろうか。
 「きっかけは、韓国の東亜大学から届いた1通のメールでした」と語るのは、日本側の主担当である熊本大学工学部グローバルものづくり教育センター・特定事業教員の生野朋子先生。東亜大学では、グローバルに活躍できるエンジニアを養成したい、そのために国を越えて学生同士が交流するプログラムを実施できるパートナーを探していた。その候補として熊本大学に声がかかったのだという。
 「当学部では卒業後、製造業に就職する学生が多いのですが、その製造業においては、近年、国の枠を越えた国際プロジェクトが増えています。学生には、語学力を鍛えるということもさることながら、国が違えば文化や生活など、『当たり前』が違うということへの気づきを得てほしいという思いから、このプログラムを進めることになりました」
 東亜大学側の担当者には、日本への留学経験があり、政治的に難しい局面にあっても日韓両国の架け橋になる人材を育てたいという思いがあったという。日本側からすると、東亜大学のある釜山と熊本は距離的に近く、渡航費や滞在費など、学生への金銭的な負担が少なくて済むというメリットもあった。
 「このプログラムは、独立行政法人日本学生支援機構からの援助を受け、できるだけ学生に負担がかからないような設計がなされています。相手側が欧米の大学となると多額の費用がかかってしまいますが、アジアですと負担がかなり軽くなるので、学生が参加しやすくなります。加えて治安が良いというのも大きなポイントですね」
 もう一つ、メリットとして挙げられるのは、メインの活動であるキャンプが夏休みに実施される点だ。特に理工系の学部では、実験や演習があり、数カ月、海外に行くとなると、留年を覚悟しなければならない。その点、このプログラムは、学期中に事前のやりとりはあるものの、夏休みを利用するため、理工系の学生が参加しやすくなっている。

会話力はほぼ全員が「向上した」と実感

 プログラムの内容について、2018年の8月に熊本大学で開催されたキャンプを例に、もう少し詳細を紹介しよう。
 2018年は3校から各24名が参加した。多くは2年生、3年生で、学部は電気、機械、材料、化学、土木、建築、デザインなど、専門も興味も多様な学生が集まった。各大学2名ずつの6名で1チームを結成し、12チームに分かれて「未就学児のための知育玩具」をテーマにプロトタイプ(試作モデル)を作り、コンテスト形式で評価が行われた。実際に学生が顔を合わせるのは8月だが、チームの活動は5月頃から始まる。
 「チーム分けの後、5月から7月にかけてチームごとに企画から設計までを行います。可能ならインターネットの会議システムなどを利用できるとよいのですが、お互いの時間を合わせるのがなかなか難しく、現状ではLINEでやりとりをするチームが多いようです。8月のキャンプでは、到着してウェルカムパーティの後、早速、各チームはミーティングに入ります。材料の買い出し、プロトタイプ製作は3日間という短い期間で行われます。具体的には「Arduino」という開発システムと3Dプリンターを使うチームが多いです。最終日には、製品のデモンストレーションと英語でのプレゼンテーションを行い、各大学の代表教員による審査を経て、結果発表という流れです」
 語学面では、韓国と日本の2カ国で実施していたときは、韓国人学生の中に日本語で通訳ができるほど堪能な学生がいることが多かったが、台湾が加わったことにより、3カ国を自由に操る学生となると限られるため、コミュニケーションは英語が中心となり、熊本大学が目指しているプログラムの形にさらに近づいたという。
 「英語力に関しては、中学、高校で英語を学んでも実際に使った経験がない学生や、海外に行くのが初めてという学生も多数参加しています。事前に、渡航時と海外滞在中の安全面に関するレクチャーは行いますが、英語に関しては特別なサポートはしていません。ただ、このプログラムの主たる目的は語学ではなく、『協働でモノをつくる』というところにあり、実際、互いに話さなくてはならない状況に学生は置かれます。共通の目的があり、必要に迫られて英語を使うため、終了後の学生の感想として、文法・語彙力に関しては7〜8割が、会話力についてはほぼ全員が、力が上がったと実感しているようです」
 キャンプの最後に行われるプレゼンテーションも英語で行う。中には、とても上手な発表をする日本人学生もいるという。
 「その学生に尋ねると、大学で英語でプレゼンテーションをする授業は受けたことがあるけれど、実際の場で発表するのは初めてということでした。学んだことを実践する、いい機会にもなっているようです」

(写真)プログラムが始まる前にオンラインで対面式を行う

「チーム崩壊」の危機の後に、意外な展開が......

 実際に学生たちが開発するのは、簡単なプログラミングと、温度や光などをセンサーで感知して動かすといった電子工作の範囲でできるもの。出来上がる製品は家電や家具などで、既存の機能に近いものが多いが、もうひと工夫すると新機軸が出せるのではと思われるものもあるという。デザイン面では、これまでは3Dプリンターで出力した白い樹脂のままのものが多かったが、2018年はテーマが「玩具」だったためか、色をきれいに塗り、見栄えのよいものが多く出来上がったという。最優秀賞に選ばれたのは、出題された数や言葉のパネルを正確に踏むという体全体を使うおもちゃ。数字や色の知識の習得と身体能力の向上効果も考えた点が高い評価を得た。
 「実は運営側として最も苦心するのがテーマ設定なんです。学生に作ってもらいたいのは身近な製品なのですが、範囲を広げ過ぎても狭め過ぎても難しくなります。テーマは年初めぐらいから3大学の教員が集まって決めるのですが、毎回、そこは大きな議論になります。2018年の『玩具』は、学生自身が『おもちゃとはこういうもの』と知っていた点で取り組みやすいテーマだったと思います」
 プログラムが学生にとって有意義なものとなるように、審査と評価のポイントは、製品の出来上がりだけではなく、製品を作り上げるまでのプロセスとチームワークにも大きなウエイトが置かれている。
 「教育的な観点からプロセスとチームワークも重要であるということで評価ポイントに加えられました。学生にも何が評価されるのかをしっかり伝え、意識を持たせるようにしています」
 実際に顔を合わせる前の企画検討期間中は、学生は進捗について教員に報告書を送り、教員はそれに対してコメントを戻し、学生のモチベーション維持に努める。ただし、作業に入った後は、原則として教員は手助けはせず、チーム内で起きる問題解決も学生に任せ、見守るスタンスをとっているという。
 では、実際に育ってきた環境が違う人と協働するとはどういうことなのか。
 生野先生によると、うまくまとまるチームもあれば、「チーム崩壊」の危機に陥ってしまったチームもあるという。
 「日本人同士でも、チーム内でコンセンサスを取るのは難しいと思うのですが、国際的な取り組みでも、ここが一番難しい点だと思います。うまくコミュニケーションが取れているチームは、やはり出来上がる製品もしっかりしていることが多いですね。一方、崩壊しかけたチームでは、1人の日本人学生が自分の意見を強く主張するタイプで、台湾、韓国の学生とぶつかってしまいました。ただ、もう1人の日本人学生がその間を取り持って、なんとか最後は製品を作り上げました。後日、間に入った学生に聞くと、意外にも『本当に大変で途中、何度もやめようと思ったけれど、やってよかった』というのです。もう二度と海外に行きたいなどと思わないのではないかと思いきや、その後、その学生はイギリスに留学しました。『今回の経験を通して、話さないとわからないことがあるということが分かった』と言ってくれたのはうれしかったですね」
 時にぶつかりながらも最終的に目に見える形で製品が出来上がることから、達成感が得られやすいのもこのプログラムの特長として挙げられるだろう。プログラム参加をきっかけに長期留学を目指す学生も出てきているという。
 「例えば内閣府が推進する『青年国際交流事業』や文部科学省が主導する『トビタテ!留学JAPAN』に応募しようという学生もいます。今後も、そういうきっかけに、このプログラムがなってくれれば、と考えています」

(写真)3カ国の学生がアイデアを出し合いものづくりに挑戦。


◆取材・執筆 青山美佳 株式会社エスクリプト
◆写真 遠藤貴也



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