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アルク総研ニュース(2020年2月)

今月のテーマ記事

明治学院大学日本で進展するグローバル化に対応
内なる国際化プロジェクト
<Curriculum Policy>


外国人の増加により、地域社会の多文化共生が進む日本。ニューカマーのケアや、日本人コミュニティーとの融和に貢献する人材もまた、欠くことのできないグローバル人材だ。明治学院大学は、創設者ジェームス・カーティス・ヘボン博士の精神、"Do for Others"(他者への貢献)を教育理念に、「内なる国際化」に向けたプロジェクトを全学規模で展開しようとしている。

(写真)野沢慎司副学長(社会学部教授)

日本で進むグローバル化に"Do for Others"の精神で臨む

 「グローバル化」というと、私たちは世界を舞台にした協働、共生、競争などを思い浮かべる。だが国内に目を転じれば、外から流れ込んでくるグローバル化の実態がそこにある。例えば外国人の急増だ。日本にはすでに、多くの外国籍の人々や、外国にルーツをもつ人たちが生活している。その数およそ283万人(法務省出入国在留管理庁調べ・令和元年6月末現在)。
 もはやグローバル人材は、英語を使って海外で活躍する人だけではない。日本社会の「内なる国際化」に対応する、もうひとつの「グローバル人材」の育成も大学に求められている。
 明治学院大学の「内なる国際化プロジェクト」は、こうした社会の変化のなかで、学部共通の教育を担う教養教育センターと、社会学部が連携するかたちで、2015年度に始まった。野沢慎司副学長は、当時の社会学部長として、その立ち上げからプロジェクトに深く関わってきた。
 「本学には建学当初から、出自、国籍、言語や文化などの違いを越えて、必要とする人に手を差し伸べる、"Do for Others"(他者への貢献)の精神が根付いています。海外から来て日本で暮らす人たちがこれだけ増えた今、その人たちが抱える課題の解決に積極的に関わっていくことは、まさに本学のモットーに適っていると直感しました」
 日本社会のグローバル化に伴う問題について、考え、学び、実践的に関わる「内なる国際化プロジェクト」は、社会学的にみても有意義だ。とはいえ、その分野の専門家は多いとは言えない。そこでシンポジウムや講演会を開催し、教職員が「内なる国際化」の実態を学ぶところから始め、やがて浮かび上がってきたのが、外国につながる子どもたちの教育の問題だった。
 今の日本には、外国籍の子どもや、海外で生まれ育った日本人の子女が多数いる。彼らの日本語習熟度や、日本での暮らしに対する適応状態はさまざまで、家庭内で話されている言語も多様だ。こうした子どもたちが地域社会に増えるとともに、ごく普通の公立学校で、日本語がよくわからない児童・生徒への対応に混乱したり、取り残される子どもが出たりと、課題も次々と浮かび上がっている。
 「内なる国際化プロジェクト」ではこの問題に着目。教養教育センターが提供する共通科目や社会学部開講科目のなかに、多文化共生に関する授業を多数開設し、社会福祉法人と協力して、日本語の習得や地域への適応が十分でない子どもたちの「学習支援教室」のサポートにも乗り出した。

共通科目と学部独自科目で学び、実践で理解を深める

 「学習支援教室」の活動は、もともと社会福祉法人「さぽうと21」が主催する取り組みである。日本語のハンディなどが原因で、学校の授業に遅れがちな子どもたちのために、日頃は週末を中心に授業を行っている。一方、春休みや夏休みは、集中的に補習をして学習の遅れを取り戻す良いチャンスだ。しかしその時期に子どもたちが集まれる場所が、見つからず、困っているという話を聞いた。
 「幸い大学には、夏休み中、空いている教室がたくさんあります。だったらうちのキャンパスに来て、勉強してもらおうということになったのです。大学という環境は、子どもたちには刺激になり、勉強をするモチベーションにもなるでしょう。本学の学生にも手伝わせてもらえれば、多文化共生社会の実態を知るうえで、何よりの実習になります」(野沢先生)
 こうして始まった明治学院大学での「学習支援教室」は、夏休み中の20日間程度開催され、下は小学校4年生から上は高校生までが通ってくる。朝10時から夕方までみっちり勉強を教えるのは、「さぽうと21」が委嘱する専門の先生たちだ。
 その間、大学生は子どもたちの間に入って勉強を手伝い協力する。関連の授業を取っている社会学部の学生と、他学部からのボランティアを加え、参加学生は毎回20人ほどになるという。
 大学側から見ると、この実践は「内なる国際化プロジェクト」によって、授業としっかりリンクしている。社会学部の場合、「学習支援教室」は「ボランティア実践指導」の授業の一環だ。他学部の学生もボランティアとして参加でき、その場合、授業としては、教養教育センターの共通科目を通じて、日本語支援などの実習が用意されている。
 社会学部から始まって6年目に入ったプロジェクトには、現在、国際学部、心理学部、文学部が参加。法学部なども順次加わる見込みだ。「学問領域は違っても、『内なる国際化』の視点は、それぞれの分野で多文化的な理解を広げますから、十分、学部横断的に取り入れられると思います」と野沢先生。
 授業に関しては、上記の実践的科目のほかにも「内なる国際化論」(社会学部)、「日本語教授法」(国際学部)、「多文化支援心理学」(心理学部・教育発達学科)、「異文化理解」(文学部)などが開講されており、これに全学共通科目を加えた指定科目群から、12単位を履修することで、学生は「多文化共生サポーター」の認証を取ることができる。さらに「ボランティア実践指導」などの実践的科目の4単位を履修すると、「多文化共生ファシリテーター」の認証も取得可能だ。いずれも明治学院大学の独自認証だが、大学での取り組みが就職活動でアピールできると、学生の評判は良い。

(写真)子どもたちと交流しながら学習のお手伝いを行う「学習支援教室」。

「学習支援教室」は学生たちが気づきを得る貴重な学びの場

 「学習支援教室」は、夏休みのほか、春休みにも行っており、実習を体験した学生たちからは、毎回、真摯な感想が寄せられる。
 「自分たちが当たり前に使っている日本語表現でも、改めて意味を聞かれると、説明するのにとても苦労した」
 「幼い頃に難民として家族で来日した高校生が、帰国後のことを考え、日本で勉強する意味に悩んでいる。先の見えない彼らの不安を知った」
 「日本や日本語に馴染めば馴染むほど、親と話が通じなくなるなど、想像もしなかった問題を抱えていることに気づいた」
 「中国からの留学生として、自分の日本語もまだまだだが、その分、子どもたちの気持ちがわかるので、ボランティアで参加した」
 授業と実践では、学びの質が明らかに違うと、野沢先生は指摘する。
 「このプロジェクトに参加していたある学生は、大手企業の内定を辞退し、経営課題の解決を支援する一般社団法人に就職しました。外国人従業員を雇用する会社に、アドバイスをする仕事に就きたいと考えたのだそうです。そういう学生も出てきたのかと、感慨深く思います」
 グローバル化といっても、身の周りにどういう人たちが暮らしているのかさえ、私たちは実はよくわかっていない。プロジェクトは、そこから一歩踏み出し、多様な人々が集まって成り立つ現代の日本社会を発見するきっかけだ。
 「そこで"Do for Others"を実践していけば、日本や世界の課題を乗り越えていく力となり、自分も含めてみんなが暮らしやすい社会をつくれるのではないでしょうか」
 野沢先生の言葉のとおり、明治学院大学の「内なる国際化プロジェクト」は、私たちの足元の多文化共生社会に資する、内なるグローバル人材の育成を目指している。

(写真)「内なる国際化プロジェクト」の成果をまとめたブックレットも発行。


◆取材・執筆 田中洋子 株式会社エスクリプト
◆写真 遠藤貴也



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