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アルク総研ニュース(2020年9月)

今月のテーマ記事

岡山大学SDGs達成に資する
途上国の研究者を受け入れ
<Curriculum Policy><Admission Policy>


古くから日本の産業は自然や環境との共生をはかり、利害関係者との間でも、可能な限り共存共栄を目指してきた。江戸時代には、世界に先駆けて循環型社会(サーキュラーエコノミー)を確立していた日本のSDGs達成にかかる価値観や経験には、あらためて学ぶべきものがある。さらに岡山県は、瀬戸内海をはじめとする恵まれた気候や自然環境のもと、庶民教育や医療、国際貢献分野での歴史も長い。こうした背景のもと、岡山大学では国連機関と連携し、SDGs達成に向けて、世界の科学技術人材の育成に乗り出した。この秋、途上国の若く有能な研究者たちの受け入れが始まる。

(写真)横井篤文副学長(特命[海外戦略]担当)

UNCTADとの連携協定に基づきSDGs達成に向け科学技術人材を育成

 2020年1月9日、岡山大学は国連貿易開発会議(UNCTAD)との間で、「SDGs達成のための科学技術イノベーション(Science, Technology and Innovation= STI)人材の育成」(以下「STI for SDGs」)に関する包括連携協定を締結した。UNCTADと大学間で交わされるSDGs達成のための人材育成にかかる包括連携協定としては、世界初となる。
 横井篤文副学長(特命[海外戦略]担当)は、「科学技術イノベーションで新たな価値を創出し、SDGsの達成を推進していこうというSTI for SDGsの考え方は、すでに世界で広く共有されている」と語る。そしてこのSTI for SDGsを実施運営する国連の中枢機関が、UNCTADである。
 協定締結に先立つ2018年6月、横井副学長はニューヨークの国連本部で開催された「第3回STIフォーラム」に参加。世界からおよそ1000人の関係者が集まり、科学技術イノベーション(STI)をSDGs達成に生かす方法や、STIロードマップの策定意義などについて、意見交換を行っている。本フォーラムでは日本が初の共同議長国となり、横井副学長はその共同議長である星野俊哉国連日本政府代表部大使と会談し、岡山大学と岡山地域について、SDGsにおける先進的な世界の拠点地域として一体的に前進していくことを話している。
 岡山県岡山市は、2005年からすでに15年以上、国連が提唱するESD(Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育)に取り組んできた実績がある。「国連大学が定めた世界に180ヵ所近くあるESDに関する地域の拠点(RCE: Regional Centres of Expertise on ESD)のなかで、最も長い歴史をもつ地域の一つが岡山市域です」と横井副学長。岡山は、かつて吉備国と呼ばれていた歴史的文化圏であり、また江戸時代から経世済民の気風が高く、教育熱心な風土でも知られてきた。近年は公民館を庶民の学びの場として活用し、"Kominkan"を通じた産学官連携による環境教育や国際教育、ESDの実践は、海外からも注目されるところだ。2016年には「岡山ESDプロジェクト」がユネスコの「ユネスコ/日本ESD賞」を日本の取り組みとして初受賞し、2017年には岡山市が、ユネスコの「ユネスコ学習都市賞」を日本の都市として初受賞している。
 岡山大学は、地方総合拠点大学として1994年には国立大学で初めて「環境」の名を冠した環境理工学部を創設し、今日のSDGsへと続く「環境」を、教育研究の柱に据えている。2007年にはアジアで初のESDにかかるユネスコチェア「岡山大学ユネスコチェア:持続可能な開発のための研究と教育」を国連教育科学文化機関(UNESCO)から認可を受けて設置。また、2015年には文部科学省のスーパーグローバル大学創成支援事業に採択され、全学のグローバル化を推進してきた。さらに、2017年より槇野博史学長がSDGs達成に貢献する取り組みを全学で推進することを掲げ、同年12月に政府より国公立大学で唯一の第1回「ジャパンSDGsアワード」特別賞を受賞している。昨年、横井副学長を第2代のチェアホルダー(取組責任者)にして「岡山大学ユネスコチェア」の設置認可を更新している。
 「SDGs達成に向けたSTI人材の育成」に関するUNCTADとの包括連携協定は、ESDやSTI for SDGsをめぐる同学の、こうした総合的な取り組みの延長線上にあると言えるだろう。

(写真)UNCTADとSTI for SDGsの人材育成にかかる包括連携協定を結んだ大学は岡山大学が世界初だ。

途上国の若手研究者を対象とするプログラムが始動

 岡山と岡山大学は持続可能な開発のための教育について先進的な世界の拠点地域であるが、今回のUNCTADとの協定を受けて、同学のESDやSTI for SDGs分野の足跡には、またひとつ、新たな一歩が加わることになる。
 「UNCTADとの連携協定に基づいたSDGs達成のための科学技術人材の育成」事業(以下、STI for SDGs人材育成事業)として、この秋より、アフリカやASEANといった途上国からの若手研究者を対象とする、人材育成プログラムがスタートするのだ。「共同研究・研修コース」の短期プログラムと、「博士課程学位プログラム」の長期プログラムは、次のような概要となっている。

①「共同研究・研修コース」
 若手の女性研究者を対象とする、1カ月前後のプログラム。岡山大学のほぼすべてのセクターで受け入れ可能。2020年が初年度で、すでに4月に募集、8月に選考を終えた。受け入れ枠は5名程度で、実際の受け入れは、新型コロナ禍の状況を見つつ、11月以降としている。

②「博士課程学位プログラム」
 主に大学や研究機関で研究活動に携わる、40歳未満の若手研究者が対象。3年間で岡山大学の博士後期課程の学位を取得する。2021年10月以降、5名程度の受け入れを前提に、この秋から募集を始めて年内の選考を予定。

 スケジュールについては、「新型コロナ禍の影響を考慮して、流動的に対応する必要がある」としながらも、将来世界をリードするであろう、若い頭脳を招致する「STI for SDGs人材育成事業」に向けた大学の期待は高い。
 「UNCTADの開発のための科学技術委員会(Commission on Science and Technology for Development:CSTD)加盟国政府が、それぞれ国を代表する人材を選考し、応募してくるので、最終的にきわめて優秀な研究者が集まることになります。彼らは自分の専門領域を深く研究する研究者というだけでなく、地球規模の課題解決を念頭に、社会に貢献したいという思いと、高い意識を備えた次世代リーダーたちです。
 短期プログラムは、長期プログラムとも連動していますので、短期プログラムの参加者が、帰国後、『STI for SDGs人材育成事業』のアンバサダーとなってくれることにも期待しています。こうしたSDGs達成のための研究の機会があることを、自国の研究者に広く伝え、多くの若い才能に、長期プログラムに応募してもらいたいと思います。それがUNCTADや私たちが目指す方向にも叶いますし、本学にとっては、ことさら世界の優秀な人材を確保するのが難しい状況下にありますので、本プロジェクトは海外戦略的にも重要なリクルート活動といえます。」(横井副学長)

(写真)世界から岡山大学へ、優秀な研究者が集まることに期待がかかる。

日本のよき商道徳や倫理にも国際社会が注目

 「STI for SDGs 人材育成事業」は、世界をリードする実践力・実践知を身につけた人材育成と、それをもって地域と世界を橋渡しするという、地方国立大学のミッションは、確実に強化されていくだろう。地球規模の課題解決や、世界全体の人間の幸福に資するSDGsを重視し、その実現に必要な教育がESDであって、それに正面から取り組む大学であることを、地域や国内にしっかりと伝える効果もある。
 岡山大学に学ぶ一般学生には、海外からやってくる優秀な研究者との交流は、世界の頭脳の実践や展望に触れる刺激的な機会だ。同時に、「STI for SDGs人材育成事業」のプログラムに参加する途上国の研究者にとっても、日本での経験は、研究を越えて発想や文化的な違いを知るチャンスとなり得る。
 例えば世界のなかで、100年以上の歴史をもつ長寿企業の4割は日本の企業だ。生まれては消えるベンチャー企業と違って、日本の企業には伝統的に、他者と共存しながら繁栄しようとする利他主義があり、江戸期には利益と倫理を両立させる商人道が根付き、循環型社会をつくり上げていたと、横井副学長は指摘する。
 「もちろん、日本流の仕事のやり方はスピードに欠けるといったデメリットもあります。しかし全体としては、日本の『三方よし』にもある社会全体の幸福(ウェルビーイング)を追求するといったよい点が国際社会で再評価を受ける文化的な転換期にあると思います。これからは、ESDとSTI for SDGsという両輪に加え、倫理(エシックス)という第3の重要な側面も求める動きがポストコロナで世界的に活発になるでしょう。SDGsの『誰一人取り残さない』には平和・人権・公平性を重んじた人間の安全保障があり、したがって、格差社会を乗り越え地球社会を共創する新たな倫理が必要だからです。そうしたことも考えながら、日本と途上国の若い世代が『STI for SDGs人材育成事業』での協働を通して、互いのよい点を取り入れ、真に世界に貢献しうる研究者に育ってほしいと思っています」
 岡山大学では、国連平和大学(United Nations-mandated University for Peace: UPEACE)との連携も始まっている。昨年末には、槇野博史学長と横井副学長が、地球憲章国際本部があるコスタリカの国連平和大学を訪問。両地域の産官学が力を合わせ、「地球憲章」と「ESD for 2030」を一体として推進するための意見交換を行った。今年の6月には岡山大学と地球憲章国際本部が包括協定を締結している。この地球憲章を基盤とした倫理教育を深化発展させ、持続可能な社会と社会全体の幸福(ウェルビーイング)に貢献する教育研究の新たな方向性を、岡山から世界へ先駆けて発信していくことになるだろう。


◆取材・執筆 田中洋子 株式会社エスクリプト
◆写真提供 岡山大学



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