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セミナーレポート
大学のグローバル化 情報交換セミナーVol.23

グローバル人材育成への大学と企業の取り組み

2020年9月26日、「大学のグローバル化 情報交換セミナー Vol. 23」が開催されました。このセミナーは英語教育やグローバル人材育成に携わる方々、またそれらにご関心の高い大学関係者の方々を対象に、アルク主催で毎年行っているものです。23回目を迎える今回は、初のオンライン開催となりました。

セミナーでは、東京海洋大学グローバル教育研究推進機構より鈴木瑛子先生(写真左)を、三井不動産株式会社人事部より池村康平様(写真右)をお招きし、グローバル人材育成の取り組みについてご講演いただきました。当日の模様をレポートします。


【講演者】
第1部 東京海洋大学 グローバル人材育成に向けた取り組み
   ~「TOEIC® L&R 600点4年次進級要件」導入と運用~
   東京海洋大学 グローバル教育研究推進機構 特任准教授 鈴木瑛子先生

第2部 三井不動産株式会社におけるグローバル人材と育成事例
   三井不動産株式会社 人事部人材開発グループ 主事 池村康平様

【日程】2020年9月26日

「TOEIC 600点」が4年次の進級要件に

東京海洋大学ではグローバル人材育成の一環として、TOEIC® Listening & Reading Test 600点以上のスコア取得を4年次への進級要件に課しています。2014年度4月入学生より始まったこの取り組みは、海洋生命科学部・海洋資源環境学部の学生が対象で、現1年生が7期生となります。

「東京海洋大学の学生の約半数が大学院へ進学しますが、研究発表では英語での情報発信が不可欠です。また、学生の英語力を向上させることにより、留学生にとっての語学のハードルを下げ、世界に開かれたキャンパスを目指す必要性もありました」。鈴木瑛子先生は、TOEIC進級要件の取り組みが導入された背景をこう説明します。

グローバル教育の実現に向けて、東京海洋大学では3つの改革が掲げられました。最終的なゴールは「大学院授業(博士前期課程)英語化」。そのために必要な海外経験として「3年次・4年次の海外派遣型キャリア演習(選択科目)」、さらにその基礎として「TOEICスコアの進級要件化」が導入されたというわけです。TOEICがビジネスシーンからの出題で実生活に即していること、就職活動においても役立つこと、600点あれば最低限のビジネスコミュニケーション力が期待できることから、「TOEIC 600点」が基準として定められました。

学生の英語力が大幅に向上

TOEIC進級要件達成のために整備された科目は2つ。1つ目は、1年次前期の必修科目「TOEIC入門」です。学科別、レベル別の少人数制クラスで、英語学習を継続する習慣や、進級要件達成のためのストラテジー習得に重きが置かれています。もう1つは3年次の必修科目「TOEIC演習」。リーディング、リスニング、ボキャブラリーなどの強化分野別に複数コマが開講され、3年次に600点未取得の学生は自動的に登録されます。多くの学生はこれら2つの科目を通じて進級要件を達成しますが、任意で参加できる集中講座もあります。

ほかにも、語学学習スペースの設置や英語学習アドバイザーによる個別カウンセリング、TOEIC教育プログラム専任教員の設置、e-learningをはじめとする学外での学習機会提供など、さまざまな角度から学習支援に力を入れています。

TOEIC進級要件達成率の推移を見ると、毎年96〜98%の学生がTOEIC 600点以上を取得するという高い水準を示しています。入学時の平均点は、482点(平成26 [2014]年度)から527点(平成30 [2018]年度)へと大幅に上昇。1年前期(TOEIC入門)の段階で600点を突破する学生の割合も年々増加しています。また、4年生では学年全員が600点以上、うち、学年により約20~25%は700点以上の高得点を取得するなど、学生の英語力向上が目に見えて表れているようです。

「個々にとって具体的かつある程度難しいと感じる目標を決めることで、高いパフォーマンスを引き出す。そして、その成功体験をもとに、今度は自分で新たな目標を立てる。そうした高パフォーマンスサイクルモデルを、大学全体で構築、醸成していきたいと考えています。進級要件というと厳しい印象もあるかもしれませんが、そこを超えられたときには英語力以上のものを身につけてくれているのではないかと、多くの学生たちの成長を見て感じます」

鈴木先生がこのようにまとめ、第1部の講演が終了しました。

2011年よりTOEIC 730点取得を必須化

三井不動産では、グループ長期経営方針「VISION2025」にて「海外事業の飛躍的な成長」を主要な取り組みの1つとして掲げています。この中で、2025年度までに海外事業営業利益を30%まで拡大させるという目標を打ち出しており、グローバル人材の育成が急務となっています。

「三井不動産の考えるグローバル人材とは、『不動産業務経験に習熟しており、異なる環境や文化に対応する下地がある。かつ、海外でも国内でもグローバルな視点でビジネスに取り組み活躍できる人材』のこと。その育成のために、これまで段階的に数々の施策を導入してきました」と、池村康平氏は説明します。

大きな起点となったのは、2011年。この年から、全総合職社員を対象に「年1回のTOEIC受験」と「TOEIC 730点の取得」が必須化され、TOEICスコアアップ研修が始まりました。730点取得は昇格要件等にはなっていないものの、社員の間には「取らないとまずい」という強いプレッシャーが醸成されてきたといいます。総合職における730点以上取得者の割合は、2010年は約20%だったものの、現在は半数程度に到達しており、特に、20~30代の社員は約80%程度がクリアしているようです。また、入社時点で730点をクリアしている社員や、800点台後半を取得する社員の数も増えてきているそうです。

4つの研修プログラムで人材育成
三井不動産では現在、「若手グローバル研修」「中堅グローバル研修」「海外マネジメント研修」「海外トレーニー制度」という4つの研修プログラムを採用しています。

「若手グローバル研修」は、30歳くらいまでの社員が対象。語学力の向上、異文化への対応力向上、海外での人脈形成を目的として、入社3年目の社員が原則全員参加します。渡航先はイギリス、アメリカ、カナダのいずれかで、4週間、ホームステイをしながら語学学校に通います。帰国後は1日間の国内研修を設け、各自が現地で学んだ成果を英語で発表。また、翌年には海外からの留学生に英語で会社説明を行う機会を設けるなど、英語学習へのモチベーションを維持させるための工夫も凝らしています。

「中堅グローバル研修」は、主に30代、40代が対象。将来的に駐在可能な人材の育成により重点が置かれています。参加者は原則4週間、フィリピンの語学学校に通い、プライベートレッスンで集中的に英語を学びます。海外経験を持つ社員の場合は、欧米のビジネススクールで短期プログラムに参加するプログラムも用意しています。

「海外マネジメント研修」は、主に40代以上のグループ長が対象。参加者はウォートンやハーバードといった海外ビジネススクールで、2週間のエグゼクティブプログラムに参加。海外のエグゼクティブとディスカッションをする中で、駐在に対応できる力を養います。

「海外トレーニー制度」は、20代から30代の若手が対象。現地法人に駐在できる人材を育成することを目的としています。派遣先はアメリカ、イギリス、中国のいずれか。アメリカ・イギリスの場合は現地法人またはパートナー企業で半年間インターンとして働き、海外でのビジネス経験を積みます。中国の場合は現地で語学学校に9カ月間通った後、3カ月間の英語学習プログラムを受講します。

このように三井不動産の研修プログラムの全体像が詳しく紹介されたところで、第2部が終了しました。

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大学・企業の語学研修を多角的にサポート

続けてアルク担当者より、アルクが提供する大学向け・企業向けプログラムについての説明が行われました。アルクの語学研修では、Facilitative(自らの学びを可能にする指導)、Goal-Oriented(結果につながる明確な目標設定)、Learner-Centered(学習者の視点に立ったサポート体制)という3つの教務哲学を実践。講師の採用時には厳しい基準を設け、採用後もトレーニングや評価を通じて授業の品質をチェックしています。そのほか、英語学習アドバイザーeラーニングといったアルク独自の学習支援体制についても紹介されました。

多くの質問が寄せられたQ&Aセッション

今回のセミナーでは、第1部・第2部の終了後と、いちばん最後にQ&Aセッションが設けられ、それぞれ多くの質問が寄せられました。

東京海洋大学様あてには「学生のモチベーションを維持するための工夫は?」との質問があり、
鈴木先生 「ロールモデルを早い段階で示すよう意識している。本学の教員が英語でインタビューに答えている動画や、学生が英語で研究発表している動画などを見せることで、モチベーションにつなげられれば」と回答されました。

ほかにも、
「スコアを伸ばした学生が、ほかの学生にポジティブな気持ちを広めるための工夫は?」
「入学時に600点を取得した学生への対応は?」
「進級要件を達成できなかった学生への救済・支援策は?」
「学生たちの成功体験をほかの学生に広めるコツは?」などの質問が寄せられました。

三井不動産様あてには「入社前の学生たちに励んでほしいこと、大学に対して期待することは?」との質問があり、
池村氏 「英語に関しては、TOEIC 600点程度を取得していてくれると、入社後の730点も十分狙えるようになりありがたい。また、下手でもいいので外国人と話す経験を積んでほしい。外国人と接することに限らず、自分が居心地悪いと感じる場所にあえて身を置き、その中でも頑張ってやっていくことは、社会に出てからも力になると思う」と回答されました。

ほかにも、
「英語が苦手な人の多いシニア層にはどのような働きかけを行っているか」
「社員が英語学習に取り組む上でのインセンティブは必要か」
「TOEIC 730点を取得していると、スムーズに海外駐在できると感じるか」などの質問が寄せられました。

オンライン開催ではありましたが、チャットを利用して非常に多くの質問が寄せられ、大学・企業におけるグローバル人材育成に対する関心の高さがうかがえました。盛況の中、全プログラムが終了しました。

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