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アルクグローバル通信 (2018年10月)

 世界各国からの学生たちが集う、国際色豊かな学びの場として知られる国際基督教大学(ICU)。同大は90年代後半から「行動するリベラルアーツ」を目標に掲げ、さまざまな取り組みをスタートさせてきた。その一つが、夏休みを利用しての長期実習を軸とした教育プログラム「サービス・ラーニング」だ。語学留学やボランティアとの違いはどこにあるのか、その仕組みや狙いについて話を聞いた。
(写真)サービス・ラーニング・センターの黒沼先生

理論と実践をつなぐ「サービス・ラーニング」

 「サービス・ラーニング」はもともと、1980年代にアメリカの大学で行われるようになった教育プログラム。学生たちが一定期間、教室で得た知識を生かして無償でサービス(社会奉仕)活動に従事し、その経験を大学での学びに生かしていく。大学の中だけで学びを完結させるのでなく、実際にさまざまな課題を抱える学外の現場に赴き、地域の人たちとともに活動することで、自分がどう課題解決に貢献していけるかを考えさせようとするものだ。
 プログラムの軸となるサービス活動の内容自体は、コミュニティ支援や災害支援、教育支援活動への参加など、いわゆるボランティア活動と重なる場合も多い。「ただ、それがあくまで『大学での教育プログラムの一環』として行われることが、サービス・ラーニングの最大の特徴です」。サービス・ラーニング・センターで講師兼コーディネーターを務める黒沼敦子先生はそう語る。
 「ボランティアの場合は、現場で『活動する』こと自体に意味がありますが、サービス・ラーニングはそうではありません。学生たちがそれまで講義で理論として学んできたことを実践の場で生かすとともに、現場で生きた知識を学び、大学に戻ってから活動の内容を振り返り、その後の研究、ひいては将来のキャリアや進路選択にもつなげていくことが期待されます」
 自分たちが参加している活動は本当に現地社会の役に立っているのか、問題解決のために何ができるのか......現地での体験を社会的な文脈に落とし込んで、教職員のサポートを受けながら考え、深めていく。実習を通じて理論と実践をつなぐ、循環型のプログラムだといえる。
 ICUでは創立50周年を迎えるにあたり、1999年に日本の他の大学に先駆けてこのサービス・ラーニングを導入した。その背景にあるのは、キリスト教の精神に基づき「神と人とに奉仕する有為の人材を養成し、恒久平和の確立に資する」という、大学の「献学理念」だ。
 「本学では献学理念のもと、国際社会に貢献する人材の養成を変わらぬ使命としてきました。さらに、創立50周年を機に、新たなテーマとして『行動するリベラルアーツ』──机上の学問を身に付けているだけでなく、社会の中で実際に行動を起こせる、実践力を伴った人材の育成を掲げたのです」
 こうした使命を具現化することを目指して導入されたプログラムの一つが、サービス・ラーニングだった。同時に、タイ北部の少数民族の村でのワークキャンプや全盲の学生受け入れに伴う点訳サポートなど、1980年頃からICUが積み重ねてきた貢献活動を、さらに全学で積極的に推進していく意味合いもあったという。

振り返りを通じて、体験を今後の学びにつなげる

 現在、ICUでサービス・ラーニングのプログラムを履修できるのは2年生以上。全学生約3,000人中、毎年50〜60名が参加し、その大半は2年生だ。
 プログラムの軸になるのは、夏休みに行われる「サービス・ラーニング実習」。行き先によって「コミュニティ・サービス・ラーニング」と「国際サービス・ラーニング」の2科目に分かれており、いずれも3単位が振り当てられている。
 「コミュニティ・サービス・ラーニング」の実習先は、日本国内のNPO(非営利組織)/NGO(非政府組織)や自治体、福祉施設などの非営利団体。実習先への受け入れ交渉や連絡などもすべて学生自身で行うのが原則で、自ら新規の受け入れ先を開拓する学生もいる。昨年度は、沖縄の石垣島にあるWWF(世界自然保護基金)サンゴ礁保護研究センターや、アジア・アフリカ諸国から農業研修生を受け入れている学校法人「アジア学院」などが実習先となった。
 一方、ICUの国際的なネットワークを生かし、海外パートナー大学・機関が実施するプログラムに参加して、現地のNGOや公的機関での活動に従事するのが「国際サービス・ラーニング」。地域はインドやタイ、フィリピンなどアジア諸国が中心で、活動内容は障害者支援、日本語・英語教育支援、コミュニティ支援など多岐にわたる。現地大学の学生はもちろん、他国からやってきた学生たちとともに活動することも多い。
 いずれを選択した学生も、実習前の春学期には「サービス・ラーニング入門」(2単位)と「サービス・ラーニングの実習準備」(1単位)を受講。サービス・ラーニングについての基本的な考え方を知るとともに、実習先でのそれぞれのテーマを絞り込んだり、実習中のジャーナル(日誌)の付け方を学んだりと、準備を進めていく。
 そして、実習が終了した秋学期に開講されるのが「サービス経験の共有と評価」(1単位)だ。ワークショップやプレゼンテーション、ディスカッションなどを通じて、それぞれの体験を客観的に振り返って共有し、そこからどんな学びや新たな課題を得たのか、活動を通して得た学びや課題に今後どう取り組んでいきたいのかを言語化していく。体験を今後の学びにつなげていくために欠かせない「リフレクション(振り返り)」の作業である。
 プログラムに参加する学生には、一人ひとりに「サービス・ラーニング・アドバイザー」と呼ばれる教員がつき、学術的視点からの指導を中心的に担う。どの教員にアドバイザーになってもらうかは、学生自身がプログラムの最初に自分の実習先やテーマに合わせて考え、「アドバイザーになってほしい」と自分で依頼する仕組みだという。
 一方、プログラムの編成、海外パートナー機関との連絡、実習前・実習後の授業開講、そして学生へのカウンセリングなど全体的なサポートを担うのが、黒沼先生の所属する「サービス・ラーニング・センター」。学生たちに接する上では、「こうしなさい」と指示するのではなく、できる限り自主性を尊重し、それぞれの力を最大限に引き出していくことを意識しているという。
 「科目の性格上、特定の学修目標だけを目指すのではなく、学生一人ひとりの関心領域や個性によって柔軟な対応が求められると思っています。常に、この学生には今、どんな内面的な成長、学問的な成長が必要なのかを考えながら接していますね」と黒沼先生は言う。

実習体験を通じて、やりたいことが見えてきた

 プログラムに参加した学生たちは、それぞれの経験をその後にどう生かしているのか。現地での経験を通じて、将来的に携わっていきたいテーマが見えてきたと話すのは、小河峻大さん(4年生)。2年生の夏、インドネシア・東ジャワ州でのサービス・ラーニング実習に参加し、世界各国からの学生たちとともに、地元の水道設備の整備や幼稚園の建物修繕などの作業に従事した。
 専攻は経済学だが、もともとは「教育」に関心があり、教師を志した時期もあった。しかし、都市から遠く離れた小さな村で、ホームステイ先の家族とともに数週間を過ごすうち、「先進国の目線だけでいくら『よりよい教育』を考えても、それはこの人たちのところには届かない」ということに気付かされたという。
 「ホストファミリーには、本当によくしてもらって、とても仲良くなって。彼らがどういう目線でものを見て、何を考えながら毎日生活をしているのかを自然と考えるようになりました。プログラムに参加しなかったら、絶対に持てなかった視点だと思っています」
 彼らのような、都市から離れた場所に住む人も含め、すべての人が継続して教育を受けられるような環境をつくりたい──。その思いから、「オンライン教育」に関心がわき、帰国後にオンライン教育関連企業でのインターンシップに参加。卒業後も社会人としてさまざまな経験を積み、いずれはオンライン教育サービスを提供する事業に携わりたいと考えているという。
 「サービス・ラーニングを通じて、自分の興味や適性がはっきりしたという声は多いですね」と黒沼先生も言う。例えば、インドネシアの実習で農村地域のごみ問題にかかわり、ペットボトル素材の開発に興味を持ったことがきっかけで、「現代社会における製品のあり方」そのものについて考えるようになった物理専攻の学生。あるいは、現地の村で世界各地から来た学生たちとともに活動に従事する中で、コミュニケーションの重要性に気付き、開発学専攻を変更して心理学を学びはじめた学生もいる。
 「それまでの関心をさらに深めたり、広げたり、あるいはまったく別のことに関心を持ちはじめたり......。同じプログラムに参加しても、そこから何を学び、何を持ち帰るかは人それぞれです」
 大学の研究現場においては、こうした、現場での実習を含む学びを「学問」とは認めないという声もいまだ少なくない。しかし、プログラムを通じて学生たちは大きく成長するというのが、黒沼先生の実感だ。来年度以降は、1年生から参加できるプログラムをつくったり、サービス・ラーニング科目の開講時期を増やしたりと、より多くの学生に門戸を広げるための改革も検討中だという。
(写真)皆で協力して幼稚園の床の基盤を製作。一番右が小河さん。


(写真)「サービス・ラーニング・センター」が学生たちの学びをしっかりと支える。黒沼先生と小河さんを囲んで。


◆取材・執筆 仲藤里美 株式会社エスクリプト
◆写真 遠藤貴也



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