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アルクグローバル通信 (2018年11月)

 日本にいながらにして、海外大学の学生とともに学べるオンライン型の国際連携学習「COIL」。関西大学は全国の大学に先駆けてCOIL型教育の実践に取り組み、11カ国21大学との間で独自の「KU-COIL」を展開している(2018年9月時点)。国境や言語、文化の壁を乗り越えて共同学習を進めることで、学生たちはどのようなことを学べるのか。そこには、単なる英語力にとどまらない、真のグローバル人材に必要なスキルが含まれている。
(写真)関西大学国際部の池田佳子先生

国際連携学習の注目メソッド、COILを導入

 ICT(情報通信技術)を活用した遠隔共同学習が盛んだ。関西大学では2014年に、COIL (Collaborative Online International Learning)を導入した。COILとは、オンライン型の国際連携学習のこと。国内にいながら国際的な共同学習を可能とする教育メソッドであり、語学関連の科目に限らず、あらゆる学部学科で活用が可能だ。
 関西大学はこれを同学の実態に合う形に調整し、KU-COILとして運用。さらに、日本の大学としては初めて、COILのパイオニアであるニューヨーク州立大学SUNYの、COIL Global Partner Networkにも参加。実践を重ねるなかで、海外のパートナー大学を独自に増やしてきた。
 2018年9月現在、KU-COILは11カ国21大学との間で実施されており、各セメスターにつき10科目前後の科目で提供されるプログラムを、年間およそ750人ほどの学生が利用している。
 KU-COILを牽引する池田佳子先生(国際部教授)は言う。
 「これからのグローバル社会では、国籍、文化背景、言語が異なる人が、一緒に仕事をする場面が増えてきます。そうした環境でも力を発揮できるかどうかが、これから社会に出て行く学生たちに問われているのです。異文化のなかでの協働を早い段階で経験しておくことは極めて有益であり、その最適な機会がCOILです」
 KU-COILでは、パートナー大学の学生との国際バーチャルクラスを通じ、さまざまなプロジェクトが行われる。
 「本学のCOILプログラムの共通言語は英語です。しかしCOILの目的は、英語を学ぶことではありません。重要なのは、協力してプロジェクトを成功させることですから、必要なら翻訳ツールを使ってでも、意思疎通をしてほしい。自分が言いたいことを図や絵で伝えてもよいのです。あらゆる手段を駆使して海外の仲間についていき、力を合わせて結果を出すこと。それが学生にとって貴重な経験であり、大きな自信にもつながります」(池田先生)

学生モビリティの要素も加えたCOIL Plusプログラム

 2018年、関西大学の「グローバル・キャリアマインドを培うCOIL Plusプログラム」が、文部科学省の「大学の世界展開力強化事業」(COIL型教育を活用した米国等との大学間交流形成支援)に採択された。  COIL Plusは、これまでのKU-COILの実績を基に、海外研修や留学など学生モビリティの要素を加え開発されたプログラム。希望者は以下の3つのトラックから選んで参加することができる。

【トラック1】
主に1、2年生で履修する共通教養科目中、英語で開講しているグローバル科目群内で、「言語・異文化理解重点型」のCOILを実施。10日から2週間程度の短期海外研修にも挑戦するが、参加に際して語学要件は特にない。
【トラック2】
ゼミを通して、専門分野の課題に国際バーチャルチームで取り組む「専門性重点型」のCOILプログラム。通常はTОEFL iBT 60点前後で参加可能。1〜6カ月の期間で、提携校の研究室でのインターンシップも体験できる。
【トラック3】
学位志向型プログラムとして現在準備中。高次な専門的課題に取り組むCOILプログラムと、1〜2セメスターの留学を含む。まずはサーティフィケート・プログラムとして開始すべく、アメリカやヨーロッパの大学との間で調整を進めている。参加には、交換留学に要するのと同等の語学力が必要。

 「本学には、大学院生を含む3万人の学生が学んでいます。COILを通じて楽しく異文化交流を体験したいという学生もいれば、研究レベルでの高度な共同プロジェクトを期待する学生もいますので、学生の多様なニーズに対応できるよう3つのトラックを設けました。準備中のトラック3が始動すれば、文字通り全学レベルでCOILプログラムが提供できるようになります」と、池田先生。
 プログラムに参加する学生は、トラック1から始めて、段階的に上のレベルに進むことが多いが、必要な英語力や専門知識があれば、直接上位プログラムに挑戦することも可能だ。

課題の達成に向けた協働プロセスにこそ意味がある

 あるトラック1のCOILプログラムでは、メディア制作を学ぶ台湾の学生とのグループワークで、4週間ほどかけてショートムービーを制作した。
 海をまたいだチームのメンバーは、授業の内外で頻繁に連絡を取り合い、役割分担やスケジュールを決め、プロットを練り、精力的にプロジェクトを進めていく。深夜までラインやスカイプで話し込むことも少なくなかった。
 「楽しいと思うと、みんな時間を忘れて没頭します。他愛のないやり取りでも、すべて英語で行うので、自然とコミュニケーションスキルが身につき、相互理解も進み、チームワークが動き出して、課題の完成へと近づいていくのです。このプロセスこそ、将来、社会人として多様な国の人と仕事をするときに、必ず役立つ経験です」と、池田先生は語る。
 異なる文化背景の学生が集まるCOILでは、文化や価値観の違いから、物事が思うように進まないことも、もちろんある。その難しさを肌身で知ることも、解決の術を探って頭を悩ますことも、すべてが生きた学びだ。
 一方、教師はファシリテータとして裏方に徹しつつ、注意深く活動を見守っている。たいていの問題は学生が自力で解決するが、異文化の壁の前で、いよいよ立ち往生したときは、教師の出番だ。ハイコンテクストとローコンテクストなどのコミュニケーションスタイルの違いや、それぞれの国の文化・習慣を解説するなど、適切なタイミングで教育的に介入することで、学びの質はさらに向上していく。
 パフォーマンスの評価方法は、パートナー大学と関西大学の科目担当講師が協議して決定。課題の出来もさることながら、グループの中で明確な相互指示ができていたか、自分の意思を他のメンバーにきちんと伝えられたかなどを重視して、達成度を測ったという。
(写真)困難を乗り越え、海外の仲間とプロジェクトを遂行することで、大きな自信につながる。

高い汎用能力を備えた未来のグローバル人材を育てる

 一方、COILのような国際連携学習を考えるとき、気になるのが英語力の問題だ。しかし池田先生は、「どんなに英語力が低くても、COILプログラムには参加できる」と断言する。ICTのおかげで、コミュニケーションの補完手段はいくらでもあるうえ、自分の英語力不足を痛感した学生は、そこから死に物狂いで勉強を始めるというのだ。
 「COILは英語研修のプログラムではありません。しかし結果として、学生の英語力、特に口頭のコミュニケーション力は目覚ましく伸びます。本学でCOILに参加している学生のうち100人に、OPI(Oral Proficiency Interview)を受験してもらったところ、7、8割の学生が、わずか6〜7週間で1段階レベルアップしていました。まるで突然スイッチが入ったかのようです。話す相手がいて、伝えたいことがあるというのは、語学習得にとって本当に大きなファクターなのだと、私たちも学ばされました」
 COILを通じて日本の外に友だちができたのを機に、進んで交換留学に行く学生も増えた。しかし国際連携学習の真価は、21世紀のグローバル社会に向けた、汎用的能力の育成にある。ひとつのタスクから得た経験値を、次の新しいタスクに応用するヒューマンスキルは、多様な人と関わり合いながら行う共同学習でなくては学べない。
 実社会ではすでに、日本語が通じない人との共生や協働が、避けて通れなくなってきている。さまざまな学問領域でも、国際連携を通じた研究が促進されていくだろう。高い専門性とともに、汎用的なスキルを身につけた学生を、グローバル人材として世界に送り出すことが、大学に求められる新たな使命だと池田先生は考える。
 COIL Plusプログラムのタイトルにある、「グローバル・キャリアマインドを培う」の一文。それは、「君たちが目指すキャリア市場は世界だ」と告げる、学生たちへの熱いメッセージでもあるのだ。


◆取材・執筆 田中洋子 株式会社エスクリプト
◆写真 遠藤貴也



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