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アルクグローバル通信 (2019年2月)

今月のテーマ記事

芝浦工業大学大学のグローバル化に対応した
FD/SDプログラム
<Curriculum Policy>


 文部科学大臣の認定を受けた「理工学教育共同利用拠点」として、芝浦工業大学では新たな理工学教育モデルの構築を目指し、「教育イノベーション推進センター」をベースに、さまざまなFD/SDプログラムを学内外の教職員に広く提供している。今回はそのなかから、グローバル化に関連したプログラムを見ていこう。

FD/SDを牽引する教育イノベーション推進センター

 大学の事務職員のスキル向上を念頭に、2018年より、スタッフ・デベロップメント(Staff Development; SD)が大学に義務づけられた。芝浦工業大学ではこれに先立ち、FD(Faculty Development)とSDをセットとして、教職員全体の能力や資質の研鑽に取り組んできた。その中心となるのが、2012年にスタートした「教育イノベーション推進センター」だ。
 同学では、教員向けの研修に職員が参加する機会が少なくない。同センターの鈴木課長は、シラバス・ライティングのワークショップに参加したときのことを、今も鮮明に覚えている。
 「シラバスひとつとっても、先生がどういう思いで、どれほど苦労してそれを書いているか、それを知ったうえで業務に臨むのと、何も知らずに仕事をするのとでは、まるで違います。教育に対する教員の真摯な姿は、それほど感動的で、教職員の一体感を喚起してくれるのです。職員は管理職になると、大学の施策にも関わることになりますから、早い段階で教員の仕事や思いを理解することはたいへん重要です」
 同センターのFD/SD部門では、現在、「教育能力開発」「研究能力開発」「マネジメント能力開発」の3分野について、24のFD/SDプログラムを提供している。忙しい理工系の先生たちに配慮し、大半は2、3時間の単発プログラムで、最長でも1泊2日ほどだ。
 そのどれも、強制ではない。むしろ学部内、あるいは親しい先生同士が、ワークショップや研修会に声を掛け合って参加し、小さな輪を少しずつ広げながら、大学全体が歩調を合わせるFD/SDへと育ててきた。
 「教育イノベーション推進センター」は、「理工学共同利用拠点」として認定されており、すべてのプログラムは、外部の大学の教職員にも開かれている。大学のグローバル化を反映したプログラムも、もちろんそろっている。

「グローバルPBL」のノウハウを学ぼう

 芝浦工業大学では、私立理工系大学では唯一の文部科学省のSGU(Super Global University)採択校でもある。1300人近い留学生を受け入れ、短期長期の留学や、インターンシップ・プログラムなど、大学のグローバル化を全学的に推進している。
 海外協定校との間で行う「グローバルPBL(Project Based Learning)」も活発だ。学生が日本から海外に出て行く「派遣型」と、海外協定校の学生をキャンパスに迎えて実施する「受入型」と、双方向で実施している。「食品ロスの削減」「革新的なパッケージの創出」など様々なテーマをめぐって「派遣型」で60以上、「受入型」で24前後のプログラムが展開している。
 このうち12月に大宮キャンパスで行われる「受入型」プログラムの最終日が、FD/SD研修の場となる。同学では「グローバルPBL」はすでに定着しているため、これから「グローバルPBL」を取り入れたいという、他大学からの参加者が多いのも特徴だ。
 「理工系におけるグローバルPBLの新規設定と運営のノウハウを学ぶ研修」という、少々長い名前のこの研修は、午前の部と午後の部で構成されている。
 午前中は、プログラムを主幹した教員を講師に、プログラムの狙い、PBLの設計や運営面で留意した点などについて話を聞く。昨年度は、研究室同士のつながりから始める小さな「グローバルPBL」のススメ、今年度は「PBLにおける質の保証や評価方法」が主題となった。その後、国内外混成の参加学生によるPBLの発表を見学して研修が終了する。
 便宜上、これまでは「受入型」のPBLを使ってFD/SD研修を行ってきたが、来年度以降は海外で実施する「派遣型」プログラムでも研修を計画している。
 理系の学生がやがてエンジニアとして巣立って行く先は、グローバル化が進む社会だ。海外の大学生と共に取り組む「グローバルPBL」は、若い世代の異文化理解の力を、目覚ましく伸ばしてくれる。
 「だからこそ、グローバルな環境で行うPBLを、学外でも理工系の先生たちが実践しやすくなるよう、この研修が参考になればいい」と、鈴木課長が大学の思いを代表して語ってくれた。
(写真)海外協定校の学生と日本人学生が共に課題解決にあたるグローバルPBL

「英語で授業をする先生」を2つの研修で支援

 キャンパスのグローバル化が進むと、教師が英語で授業を行う機会も増えてくる。いささか気が重い先生たちのためのワークショップを続いて取り上げよう。タイトルも、「英語による授業のためのワークショップ」だ。
 芝浦工業大学では、主に短期留学生を対象に、140にのぼる科目を英語で開講している。そうした環境のもと、ホートン広瀬恵美子先生(共通教養・英語)は、このワークショップを企画するに先立ち、学内の先生たちに聞き取り調査を行った。 すると99%の先生が、こう答えたのです。『教える内容は自分の専門分野だし、準備もできるので、英語で教えることに大きな問題はない。むしろ学生との英語のやり取りや、想定していないことに英語でどう対応すればよいか不安だ』、と。
 こうした意見を参考に開発されたワークショップでは、大学のグローバリゼーションの意義の確認に始まり、学生の活発な授業参加を導くヒント、授業で使える便利な英語表現など、実践的な内容を学ぶ。
 さらにその兄弟版ともいえる「英語による授業のためのスキルアップ研修」は、「英語の力そのものを、もっと伸ばしたい」との理工系教員の声に応えたものだ。2、3時間の研修で急に英語力が伸びるわけではないが、こちらの研修でも、英語力をつけるために役立つ情報や、英語でのプレゼンテーションのコツなど、実用性を意識したコンテンツを取り上げている。
 「教員にとって、授業とはプレゼンテーションです。アイコンタクト、姿勢、声の抑揚などに注意するだけでも自信がつくものです。それが分かっているので、どの先生もとても楽しそうに参加しておられます」(ホートン先生)
 これらは理工系教員が対象の研修だが、理工系大学の英語教員の参加も多いとのことだ。

授業改善と学生の成長に資する「SCOTプログラム」

 1927年の創立以来、芝浦工業大学の建学の精神は、「社会に学び、社会に貢献する技術者の育成」であり続けた。学生の大学改革への参加も、この精神と無関係ではない。FD/SDをサポートする取り組みとして、「教育イノベーション推進センター」がコーディネートするSCOTプログラムを最後に紹介したい。  SCOTとは、Student Consulting On Teachingの略だ。学生目線で授業観察等を行い、授業改善を支援することから、FD支援活動の一環として位置づけられている。SCOTの活動に参加を希望する学生は、1、2年次で応募をして、FD/SD部門が実施する8時間の事前トレーニングを受ける。課題発表や最低2度の実地研修も課せられ、なかなかハードだ。
 全ての研修を終了すると、申請をして審査を受ける資格が与えられる。この登録申請が承認されて、初めてSCOT生として活動ができるようになる。
 自分の授業を改善するために、学生の視点から客観的な意見を聞きたいと思う教員は、コーディネーターを通してSCOTを依頼。担当のSCOT生チームは、教員との事前面談、授業参観、事後面談を経て、気づいたことを伝えたり、提案を行ったりする。それが決して批判や評価でない点は興味深い。教員の力となり、授業をより良くするためのサポートを行うことがSCOTの目的となっている。学生が自分の受けた授業を評価することとはまったく異なるシステムだ。  SCOT生は、入試課のサポート、セミナーの手伝い、TA(teacher assistant)やSA(student assistant)などの教育補助スタッフなどと並び、大学のスチューデント・スタッフであり、活動が単位取得に結びつくことはない。授業観察の業務に対して、所定の手当ては支給されるが、アルバイト感覚でSCOTプログラムに参加する学生は皆無。自分自身が成長しているという自覚と手応えが、彼らの原動力だ。それはやがて社会に出て行くとき、学生自身の大きな資産となる。
 「SCOTを通して、教員は授業改善のヒントを得ますが、SCOT生もまた、教職員との交流を通して社会性を磨き、学びに対する意識を高め、大学への帰属意識を高めています」(鈴木課長)
 「SCOTを利用した先生からは、教員相互の授業参観では得られない気づきが得られた、SCOT生のしっかりした対応に驚き、『こういう学生の育て方もあるのかと感心した』など、嬉しい感想をいただいています」(ホートン先生)
 「社会に学び、社会に貢献する技術者の育成」という建学の精神。この成句の中の「社会」は、今や「世界」へと広がっている。技術だけではなく、広く人文にも精通したエンジニアこそ、これからの世界で真に活躍しうるエンジニアといえるだろう。
 そうした人材を育てる力が、教職員に求められている。理工系大学の教職員の情報共有と、ネットワークの場として、芝浦工業大学のFD/SDプログラムは今後も要注目だ。
(写真)教員の授業改善だけでなく、学生の成長にもつながるSCOT


◆取材・執筆 田中洋子 株式会社エスクリプト
◆写真 遠藤貴也



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