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アルク総研ニュース(2020年8月)

今月のテーマ記事

明治大学東南アジアの大学と協働
学部横断で取り組むPBL型体験学習
<Curriculum Policy>


明治大学では、「CLMVの持続可能な都市社会を支える共創的教育システムの創造」事業が、平成28年度の文部科学省「大学の世界展開力強化事業〜アジア諸国等との大学間交流の枠組み強化〜」に採択された。政治経済学部、理工学部建築学科・理工学研究科建築・都市学専攻、情報コミュニケーション学部が、急速に近代化が進む東南アジアの大学と連携し、PBL (Project-Based Learning) 型の体験学習を軸に、「都市化に伴う問題点の解決」をテーマとする各種の教育交流プログラムを展開している。

(写真)理工学部建築学科の田中友章教授

急速な都市化が進むCLMVとの協働

 ASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国のうち、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムを、その頭文字を並べてCLMVという。ASEAN諸国のなかでは後発の新興国と位置付けられるが、いまや目覚ましい勢いで近代化・都市化が進んでおり、都市部の人口密集、環境破壊、公害、地方の過疎化と高齢化、地域的な経済格差といった問題への懸念も膨らんでいる。
 明治大学の「CLMVの持続可能な都市社会を支える共創的教育システムの創造」事業は、日本の過去の教訓をCLMVを含むASEAN諸国の大学と共有して、この地域の急激な都市化にともなう、さまざまな課題に取り組もうという主旨。「先進的なアジア型の将来都市構想」の立案と、その実現に向けた「共創的教育システム」を、力を合わせて構築しようというものだ。
 カンボジア工科大学、ラオス国立大学、ヤンゴン工科大学(ミャンマー)、ベトナム国家大学、チュラロンコン大学(タイ)、シンガポール国立大学をはじめ、プログラムの連携校は15大学を数える。明治大学側からは、政治経済学部、理工学部(建築学科、理工学研究科建築・都市学専攻)、情報コミュニケーション学部の3部局が参加。理工学部建築学科の田中友章教授は、CLMV諸国との協働の意義を次のように語る。
 「明治大学は都心の大学です。そして東京は、明治の近代化政策、戦後の高度成長時代を経て成長してきました。公害、過密、通勤ラッシュ、渋滞など、都市化のネガティブな側面も経験し、さまざまな課題を乗り越えて現在に至っています。
 ASEAN地域には、シンガポールのようにすでに立派な近代都市を擁する国もありますが、CLMVは今まさに都市化への道を歩んでいるところです。先行する日本の経験に学び、役立ててもらえることは、たくさんあると思います」
 明治大学の学生にとっても、CLMV諸国の学生と共に学ぶ意味は大きい。彼らは躍動する東南アジアを実際に訪れ、成長過程にある都市のダイナミズムを体感し、CLMVの未来を担う若者たちと語り合う。CLMVを含むASEAN諸国の学生も、もちろん明治大学にやってくる。そうした交流のひとつひとつが生きた学びであり、実際に、双方の学生にとって大きな刺激になっている。

知識とコミュニケーション力を育むPBL型体験学習

 本事業では、平成28年度から平成32(令和2)年度までの5年間で、派遣528名、受入れ334名の相互交流を計画している。派遣プログラムの中心は、日本とCLMVを含むASEAN諸国で実施するPBL型の体験学習であり、主に活動は夏休みに集中する。軸となるのは明治大学がバンコクにもつ教育拠点「明治大学アセアンセンター」で毎年8月に実施する、3日間にわたる「CLMV学生会議」だ。例えばタイのクロントーイにあるスラム地区及びタイの政府機関CODI(The Community Organizations Development Institute)の視察は、政府及び民間レベルでのスラム地区への支援に関する説明を担当者から直に聞き、質問に答えてもらえる貴重な機会だ。国も専攻も異なる学生が合同で参加することも多く、同じ都市開発というテーマでも、思いもかけない多角的な見方に触れられることも魅力となっている。また、受入れプログラムでも、昨年は、東京の渋谷駅周辺の再開発エリアで3部局合同の訪問学習を行い、連携大学から学生29名が参加した。
 「PBLは部局単位でも行っています。理工学部の派遣プログラムでは、タイ・バンコクとCLMV諸国のうちいずれかの主要都市、合わせて2都市を訪問する形式の共同ワークショップを夏休みに実施しています。前半は、プノンペン、ヤンゴン、ホーチミン市と、毎年異なる都市を訪れ、後半はタイのバンコクへ。連携校の学生と先生を交えて、毎年30人前後が参加しますが、寝食を共にする間に学生たちはすぐに打ち解け、SNSで連絡を取り合う友だち同士になりますよ」(田中教授)
 同様に、政治経済学部はタイ、情報コミュニケーション学部はタイ、カンボジア、ベトナムへ派遣する留学プログラムを実施している。そして、3つの部局は「明治大学アセアンセンター」に連携校の学生有志とともに集結し、3日間の「CLMV学生会議」を開催する。会議では、「都市整備パネル」「政策実施パネル」「住民合意形成パネル」に分かれ、CLMVを含むASEAN諸国の都市環境整備について、熱心な話し合いが行われる。昨年の学生会議には、明治大学から29名、CLMVを含むASEAN諸国の連携校から21名の学生が参加した。
 この学生会議の間、引率の教員たちも「共創FD (Faculty Development) ワークショップ」を開催。「アジア型の将来都市構想」の実現に資する教育力の向上や、質の保証を伴う国際教育モデルの創出を目標に意見交換を行い、知見共有に努めている。

(写真)CLMV学生会議でタイのクロントーイのスラム地区を視察。

ASEANの発展に貢献し、活躍する人材を養成

 プログラムに参加を希望する学生の選抜は、学部単位で行っている。理工学部建築学科の場合、高学年ではある程度英語力が必要になるが、「低学年では公平性を担保しながら、多様な学生が国内外での活動に参加できるよう留意している」と田中教授。
 「英語力については、4技能のテストスコアを提出してもらいます。しかし必ずしも、スコアが高いから、うまくコミュニケーションがとれるというわけではありません。アジアの学生は、英語を公用語とするシンガポールに限らず、ベトナムでも、カンボジアでも、ラオスでも、優秀な学生は英語をよく話します。うちの学生は、言いたいことがうまく言えず、歯がゆい思いをすることもあるようですが、それもよい発奮材料になっているようです」
 大学は、費用の補助や奨学金の支給、連携校との間で交換留学に準ずる相互受入れ態勢を整備するなどして、こうした学生の海外活動をサポートしている。それもあってか、2019年度はこのプログラムに関して、3つの取組部局の合計で、同学からの海外派遣が114名を数えた。ちなみに、連携校からの受入れは99名。文部科学省に提示した目標達成に向け、学生の派遣・受入れ数は共に順調に推移しており、中間評価で" A "評価を得る大きな要因になったと、大学側は受け止めている。
 明治大学は、このプログラムを通じて、どのような人材を養成しようとしているのだろう。公式には、「国連が示す持続可能な開発目標に沿って、各地の都市化に即したインフラ形成と、これを運営するための社会インフラの意義を理解し、その発展に寄与できる人材」だという。例えば、①異なる視点から自国の問題を理解し、その特殊性を自覚できること、②経済や技術の発展段階を超えて、共通の問題にアプローチできる専門知識や能力を涵養すること、③言語や文化の違いを超えて、現実的な合意や価値の形成(共創)を実現できる人材であること、などだ。
 一方、田中教授にも、エネルギーに満ちたASEAN地域の地に羽ばたいて、明治大学の強みである多様性を発揮して活躍してほしいと、学生たちの未来に寄せる期待がある。
 「日本では人口が減少し、経済も長らく停滞しています。しかしASEAN地域にまで視野を広げれば、成長著しい国や都市ならではの、可能性がたくさんあります。自分が今学んでいることを、卒業後どう役立てていけばいいのか、そこから見えてくるかもしれません。これまで、地方のどの都市へ行っても、本学の卒業生が頑張っているように、これからはASEAN地域のどの都市を訪れても、地元の人と一緒になって汗を流す卒業生がそこにいる。そんな未来になるといいですね」
 当該事業は今年が最終年度にあたる。ひとつの区切りではあるが、バンコクの「アセアンセンター」のさらなる活用もあわせて、ASEAN地域での次なる展開を考えていきたいと語った。

(写真)連携校の学生や先生と交流し、多角的な視野を育むことができる。


◆取材・執筆 田中洋子 株式会社エスクリプト
◆写真提供 明治大学



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