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アルクグローバル通信 (2018年7月)

 昭和女子大学とテンプル大学ジャパンキャンパス(以下、TUJ)が、東京都世田谷区にある昭和女子大学のキャンパスを共用することで合意した。昭和女子大学キャンパス内に6階建ての新校舎を建設し、2019年の8月をもってそこにTUJの教室が移転する。同一の敷地内に日米のキャンパスが共存するこの初の試み、昭和女子大学にどのようなメリットをもたらすのだろうか。

米大学の誘致でキャンパスをグローバル化

 TUJは米国ペンシルベニア州立テンプル大学の日本校である。「外国大学の日本校」として文部科学省の指定を受け、アメリカ本校と同じ学位が授与される、れっきとしたアメリカの大学だ。創立以来、港区内の複数のビルを学び舎としてきたが、今回の提携で専用の校舎で学び、運動場、ジム、プール、図書館、学食、カフェテリアなど、昭和女子大学の施設を広く利用できるようになり、TUJの学生の大学生活はおおいに充実度を増す。
 一方、昭和女子大学のメリットも大きい。特に期待されるのが、キャンパスのグローバル化だ。同学はこれまでも、大学の将来を見据えてグローバル化に邁進してきた。平成24年度から28年度までの5年間は、文部科学省の「グローバル人材育成推進事業」を受託。全学規模で英語のプレイスメントテストを行い、レベル別クラス編成を実施して、学生の英語力を強化した。海外からの留学生数も、海外に留学する日本人学生の数も倍増し、海外協定校は4大学から34大学にまで拡大。事業の事後評価では、全国の対象大学中、唯一、最高レベルのS評価を獲得している。
 そして今回、昭和女子大学の学生5652人と、TUJの学生1535名(どちらも2017年の大学院を含む学生数)が、ひとつキャンパスで大学生活を送ることになる。TUJの学生のおよそ6割は、アメリカ人をはじめとする外国人だ。昭和女子大学の坂東眞理子理事長・総長は言う。
 「大学のグローバル化は、とても時間がかかるものです。本学も、もっと留学生を増やしたい、もっと英語の授業を増やしたい、最終的には英語の授業だけでも卒業資格が取れる、真にグローバルな大学を目指したいと、頑張ってきました。道はまだまだ遠いと思いますが、TUJとの提携を機に、大きく前進することは間違いないでしょう」

右記上写真:坂東眞理子理事長・総長
右記下写真:TUJが新校舎に移転するのは2019年8月の予定。日米のキャンパスを同一敷地内に置くのは日本で初めての試みだ。

ビジネス界から得た大胆な発想

 同一の敷地内に日米の大学がキャンパスを置くケースは、日本ではまだ前例がない。だが昭和女子大学にとっては、外国の学校とのキャンパス共用はこれが2例目だ。閉校した短期大学部が使っていた建物に、すでに2006年から、英国のカリキュラムを運営するThe British School in Tokyoを受け入れているのである。
 同じ敷地に、英語で教育を行う外国の学校が共存するという環境は、日本の教育機関にとってきわめて刺激的で、そこから学ぶことも多い。新たに外国の大学を受け入れることで、可能性はさらに広がると昭和女子大学では期待する。大学同士の協働の機会も、さまざまな分野で広がりそうだ。
 だがそもそも自学のキャンパスを、他の学校・大学とシェアするという大胆な発想は、一体どこからきたのだろう? 官僚経験をもつ坂東理事長・総長は、それを経済界から学んだという。
 「ビジネスの世界では、知見のない分野の事業をゼロから自社で育てる代わりに、すでにその分野で成功している他社を買収することが珍しくありません。M&Aが一瞬にして事業の拡大や多分野化を可能にするように、私たちも外国の大学と組むことで、グローバル・キャンパス実現の道のりや時間を、一気に短縮できると考えたのです」
 もちろん発想だけでは物事は進まない。関係者間の合意形成にはじまり、キャンパス内のどの建物にTUJに入ってもらうかといった現実的な調整も必要だった。最終的に、道一本を挟んだ区画にある体育館とプールを、校舎に建て替えることになったが、まだまだ検討を要する案件は残っている。女子学生だけのキャンパスに、来年から男子学生も入ってくるのだ。2つの大学が互いの自立性を保ちつつ、どういうルールでキャンパス・シェアを実現していくか、ひとつずつTUJと詰めていくことになるという。

右記写真:2006年には英国の義務教育課程の学校であるThe British School in Tokyoを開校した。

単位履修プログラムでTUJに「留学」も

 キャンパス共用化に向けた準備が進むなか、大学間のアカデミックな交流は一足早く、2016年から始まっている。T0EFL550点以上をクリアした昭和女子大学の学生は、希望すれば1セメスター(3学期制のTUJにおける1学期)にわたってTUJの授業を受け、単位が取得できるのだ。定員は各セメスターにつき15名。日本にいながらにして、1セメスターの短期留学にも匹敵するような経験ができ、特別な費用もかからない。今は港区のTUJの校舎まで足を運んでいるが、来年TUJが同じキャンパスに移転してくれば、名実共に、より身近なプログラムになるだろう。
 いずれは教員が互いの大学で教え合う機会もつくりたいですね。英語による授業は本学でも行っていますが、TUJの学生が授業に参加するようになれば、もっと活性化するでしょう。ゆくゆくは両大学共通のカリキュラムや、連携プログラムも、提供できるようにと考えています」(坂東理事長・総長)
 アメリカの大学の多くは、研究大学とは一線を画し、教育大学としての役割を自認しており、TUJも例外ではない。大学教員は教育のプロフェッショナルとして、いかに教育成果をあげるかに腐心すると同時に、責任ある独立した個人として学生を扱う。授業では発言が求められ、宿題は多く、学生もとても熱心に勉強する。こうしたアメリカの大学ならではの教育方法や、大学としてのあり方も、ぜひこの機会に参考にしたいと昭和女子大学は意欲的だ。

右記写真:米国ボストンにある海外キャンパス。日米の教員が協働して体験型の留学プログラムを展開。

求められるのは、英語力より、語るべき「内容」

 TUJとの交流が始まって以降、昭和女子大学の学生にも変化が現れている。もっとも顕著なのが英語への取り組みだ。かつては就職を考えてTOEIC一辺倒の学生が大半だったが、TUJの単位履修プログラムという目標ができたことで、やる気のある学生はT0EFLにも挑戦するようになった。
 単位履修プログラムの参加条件であるT0EFL550点は、TOEICなら800点以上に相当する。日本の一般的な大学生の英語力は、受験直後の入学時がピークで、あとは落ちる一方というが、昭和女子大学の場合、T0EFLの勉強をする学生が増えた結果、卒業時のTOEICスコアが、入学時より平均で150点から200点ほど伸びた。来年以降はTUJの学生を相手に、キャンパスで英語を話す機会も増えるだろう。さらなる進歩が楽しみだが、では昭和女子大学はキャンパスのグローバル化を通して、最終的にどのような人材を育てようとしているのか。最後に坂東理事長に聞いた。
 「私たちが育てたいグローバル人材とは、自分と違う価値観の人、自分と違うライフスタイルの人と、うまく折り合って協力していける人です。相手に同化するのでも、相手を自分に同化させるのでもなく、互いの違いを認めて共存共栄できること。学生が生きていくこれからの時代、そういう力がさまざまなレベルで必要になってくるでしょう。
 グローバル人材には、流暢だけれど中身が空っぽな'Empty beautiful English'はいりません。重要なのは、幅広い分野についてよく学び、知識を深め、自分で考えることです。自分の考え、価値観、美意識、日本人としてのバックグラウンドなどをしっかりもって、内容のあることを自分の言葉で語れる人になってもらいたいと思います」


◆取材・執筆 田中洋子 株式会社エスクリプト
◆写真 昭和女子大学、遠藤貴也



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