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アルクグローバル通信 (2018年8月)

 大学入試改革における英語4技能評価推進の動きを受け、入学試験に外部の英語検定試験を利用する大学が増加している。そんな中、東京外国語大学は、英国の公的機関と共同でオリジナルの英語スピーキングテスト開発に踏み切った。なぜいま「独自試験」なのか、その内容とは──。開発にかかわった同大大学院総合国際学研究院の根岸雅史教授に経緯を聞いた。

入学試験へのスピーキング試験導入に向けて

 2017年12月、英国の公的国際交流機関である「ブリティッシュ・カウンシル」が、東京外国語大学と共同で、新たな英語スピーキングテスト「BCT-S」を開発する、と発表した。ブリティッシュ・カウンシルが実施する英語力評価試験「Aptis」を下敷きにした、日本の大学入試向けスピーキングテストである。
 東京外国語大学では従来、入学二次試験の「英語」において、独自に制作する「リーディング」「ライティング」「リスニング」の3技能試験を実施していた。外国語の専門大学だけに、「スピーキング」を加えた4技能評価の導入を模索する動きはかなり以前からあったが、実現には至っていなかったという。
 しかし、大学入試改革などの動きを受け、3年ほど前から、根岸教授を中心とする学内の英語教育関係者が集まって本格的な検討をスタート。「当初は、民間の英語検定試験の活用も考えていました」と根岸教授は振り返る。
 「例えば、多くの大学がやっているように、受験生各々に外部試験を受験してもらい、そのスコアを提出させるという方法があります。しかし、検定試験によって内容や評価方法が異なるため比較しづらく、選抜が難しいというのが私たちの考えでした」  また、外部試験の主催団体と連携して、入試と同日にその試験を同大内で実施するという案も検討された。しかし、民間検定はどれも4技能を総合的に評価する仕組みになっており、スピーキング試験だけを切り離して行うことは認められない。また、採点に時間がかかることもあり、大学の入試や合格発表のスケジュールに合わせての実施は困難だった。
 そこで、「大学独自のスピーキングテスト開発」に方針を切り替え、さらなる検討を続けることに。とはいえ、これもまた簡単ではなかった。
 「そもそも、毎年約3000人という受験者全員に対面でのスピーキングテストを行うのは現実的ではありません。ICレコーダー録音などを利用したとしても、採点者がそれをすべて聞いて、他の教科試験の評価と歩調を合わせての評価を行うのは難しいと考えました」。根岸教授はそう語る。
 自動音声認識による採点も検討されたが、正確な評価を行うためには、事前に音声認識エンジンの精度を上げるための調整・トレーニングを行う必要がある。これも、技術的・時間的な負担が大きく、やはり現実的ではないと考えられた。

英国発の評価ツールをカスタマイズ

 2年以上も議論を重ねながら、突破口はなかなか見えない。そんなとき、根岸教授がある学会で出会ったのが「Aptis」だった。ブリティッシュ・カウンシルが開発したこの4技能英語力評価ツールは、世界約80ヵ国の政府機関や企業、学校で導入されている。スピーキングの試験実施時間は約12分、受験者はコンピュータの前に座り、ヘッドフォンから流れてくる質問に答え、その録音データをもとに評価が行われる──という仕組みだ。
 「Aptisに関する発表を聞いたとき、直感的に、『これはいけるんじゃないか』と感じました。それで、発表者のところへ行ってさらに詳しく話を聞いてみたのです」  「いける」と感じた理由はいくつもあった。スピーキング部分だけを切り離しての運用が可能で、導入にかかる予算が抑えられること、トレーニングを受けた採点者が世界各地に多数おり、採点・返却までの期間が非常に短いこと、点数評価が出されるため、既存の3技能試験の結果と組み合わせての運用がしやすいこと......評価レベルの範囲も、CEFRスケールにおけるA1~B2程度が中心となっており、東京外国語大学受験者のボリュームゾーンにちょうど合致していた。
 「学内での議論でも、どの視点から検証しても私たちの求めているものにもっとも近いという結論になりました」
 もともと、まったく同じ試験を世界中で行うのではなく、それぞれの国や地域のニーズに合わせたアレンジを加えつつ実施されているのが、Aptisの大きな特徴でもある。東京外国語大学でも、Aptisを下敷きとしつつも、同大の入学試験に最適化したテストを構築するため、ブリティッシュ・カウンシルとさらなる検討を重ねていくことになった。  2017年春には、学内に新テスト開発の専門部署を設置。根岸教授自身も、Aptisが公開しているテスト設計図をもとに、ゼミの学生とともに新テスト案を作成、ブリティッシュ・カウンシルに意見を求めるなどの取り組みを重ねた。
 「開発にあたっての基本的な方向性は、『日本の高校生が持っている知識で解答できる内容にする』ということでした。Aptisはやはり外国で開発された試験なので、例えば、質問を聞く際に提示される写真が、日本の若者にはなじみのない内容で分かりにくかったりする。これを別の、日本の高校生でも分かる写真に差し替えるといったことですね」  また、Aptisは学生だけを対象とした試験ではないため、幅広いトピックスが扱われている。そこで、入学試験としての観点から、ビジネスやアカデミックに寄りすぎないようにするための調整も行った。「日本の大学の状況や学生の感覚を知っているわけではないブリティッシュ・カウンシルのスタッフに、こちらの意図を伝えるのはなかなか大変でした」と根岸教授は笑う。
 そうした修正を数多く重ね、Aptis東京外国語大学版ともいえる「BCT-S」が完成。昨年12月の共同発表へとこぎ着けた。

右記上写真:2018年4月に在校生がBCT-Sを体験受験した。

他学部、そして他大学への展開も

 東京外国語大学では、まず来年度から新設される「国際日本学部」の入学試験において、このBCT-Sを導入。2021年度入試からは全学に拡大するとこの8月に発表された。  「今回は大学のパソコン室を利用する予定ですが、今後他学部にも広げて受験者が増えれば、一般の教室で1人1台のタブレットを配布して行う形になるかもしれません。さらにいずれは、受験者自身のスマホなどの利用もあるかもしれませんが、まだ先の話ですね」
 国際日本学部の入試の配点のウエイトは、他の3技能の試験が計300点、BCT-Sが50点。合わせて350点満点の結果を300点満点に圧縮し、他の教科とともに評価する仕組みだという。採点は「テスト運用段階でも納得の行く結果が得られた」ことから、Aptisのシステムをそのまま利用。スケジュール的に問題はない見込みだ。
 また、このBCT-Sのスコアは、合格者の入学後も語学学習の指標として使えるのではないか、との期待もあるという。
 「本学では現在、CEFRに準拠したさらに細かい能力指標である『CEFR-J』を利用し、学生の4年間の語学力の伸びの指標としています。それを入試時点でのBCT-Sスコアと紐付ければ、どのくらい語学力が向上したかが分かりやすく可視化できる。スピーキングの授業も、現状はTOEIC(R)テストのスコアをもとにクラス分けを行っているのですが、代わりにBCT-Sの結果を用いることで、より学生の実力に合ったクラス分けができるのではないかと考えています」
 さらに今後は、BCT-Sの他大学への展開も視野に入れている。場合によっては、その大学の特色や受験生の傾向、英語力レベルに合わせて、さらにカスタマイズを加える可能性もあるという。
 「例えば医科大学であれば医療に、工学部であればテクノロジーに関連したトピックを多めにする。あるいは、評価の範囲をその大学のレベルに合わせて変更するといったことも考えられます。そうして各大学の特色を打ち出せるのも、独自テスト開発の大きなメリットではないでしょうか」
 2018年7月のオープンキャンパスの際には、BCT-Sの体験受験も実施。参加した高校生らからは、概ね好評を得ているという。


◆取材・執筆 仲藤里美 株式会社エスクリプト
◆写真 遠藤貴也



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