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アルクグローバル通信 (2018年12月)

 東洋学園大学では「プロジェクトマネジメント」の授業の一環として、外国人観光客に書道を教えるプロジェクトを実施している。学生たちは「英語」ではなく、「おもてなし」を成功させるために企画・運営からステイクホルダー・マネジメントまで幅広いタスクをこなす。このような英語をツールとして掛け合わせた実践的な総合学習であるPBL(Project Based Learning)は、学生らの大きな成長実感へと繋がっている。なぜ経営を専門とする学部の授業で、外国人を相手に英語で行うPBLを取り入れたのか。担当は英語教員ではない本庄加代子准教授。この授業に込められた想いを伺った。
(写真)現代経営学部准教授の本庄加代子先生

知っている単語で外国人に書道レッスン

 東京の静かな住宅街の夕暮れどき、旅館「澤の屋」の玄関先に、旅行者を迎える灯りがともった。今夜はエントランスホールに隣接した食堂で、「書道エクスペリエンス」が開かれる。実施するのは東洋学園大学の学生たち。日本を訪れる外国人観光客に、無料で書道を体験してもらおうというプロジェクトだ。書道への関心と日本人との交流の機会として、外国人観光客に喜ばれており、「澤の屋」のお客さんを中心に、これまでに150人以上が参加した。
 プログラムで挑戦するのは、自分の名前を漢字で書くこと。参加者の一人、カナダ人のヴィクトールさんは、毛筆を手にするのも、半紙に触れるのも今日が初めてで、いくぶん緊張した面持ちだ。'ヴィクトール'が「勝者」を意味する名前であることから、学生たちは「勝利」という漢字表記を提案した。画数が多くて少し難しそうだが、本人も気に入ってくれた様子。
 学生たちはチーム全体の動きに目を配りながら、各自の役割をきびきびとこなしていく。準備が整うと一人の学生が、さっとヴィクトールさんの隣に座った。ハネ「jump」、払い「sweep」、点「dot」など、シンプルな英語で筆の運びを説明しながら、ゆっくりと文字を書いて見せる。
 何度か練習をして、漢字の名前を書き上げたヴィクトールさん、学生たちから口々に、"Very nice!" "Good job!"と褒められて、表情が一気にほころんだ。  「日本の子どもたちは、いつから書道を習うの?」「半紙の裏表なんて、どうやって見分けるの?」「君たちの大学はこの近く?」
 書道の合間にも次々と質問が飛び出し、学生との会話が弾む。学生たちも、時々言葉に詰まることはあるが、英語のおしゃべりを楽しんでいる。
 その後、ヴィクトールさんが折り紙講習で鶴や風船を折っている間に、「勝利」の習字は台紙に張られ、30分ほどのプログラムの終わりに手渡された。今ごろはカナダの自宅に、誇らしげに飾られていることだろう。

AI時代・グローカル時代に大学生に求められるスキル

 近年、インバウンドでは、より体験型の観光が注目されるようになってきている。武道から和食調理の体験コースまで、趣向を凝らしたアクティビティが人気を集め、大学でも学生の語学教育や国際交流の機会として、インバウンド関連の活動が盛んだ。
 しかし東洋学園大学の「書道エクスペリエンス」は英語教育ではない。現代経営学部3年生の選択科目「プロジェクトマネジメント」の授業の一環である。
 「プロジェクトマネジメント」とは、限られた期間で企画から運営し、ステイクホルダー・マネジメント、予算管理やコミュニケーション、リーダーシップなどの新規事業創造などで必要なスキルを学ぶ科目である。
 2015年から始まった本取組みは、会場となる旅館「澤の屋」のキャパシティの関係から、履修生を16名程度に限定していて行っている。これまで70名近くの学生が受講しているが、学生の自己成長感や充実度も高く、授業時間外でも積極的に指導を求めるなど、学生の能動的な動きが目立つ。
 授業は三段階で進んでいく。課題発見をスタートラインとするために、最初の「書道エクスペリエンス」の実践を講義に先立って行うのが特徴である。学生らの気付きがあったことを踏まえて、教室で理論を学習。さらに理論を踏まえて、2度目の実践に取り組むという流れだ。
 初回の実践では、連絡不足で各自の役割分担が曖昧だったり、不慣れなために相互に過剰な依存をしたり、計画が甘くて予定の終了時間を過ぎてしまったり、社会人としての未熟さから、協力してくれている旅館の事情に思いが至らなかったりと、さまざまな問題があぶり出されてくる。そうした失敗を検証しつつ、学生たちは理論と実践の両面から、プロジェクトの目標設定、全体計画、進捗管理、予算管理、リスク管理、人的資源管理(人的配置)、情報共有、ステイクホルダー・マネジメント、リーダーシップといった項目について学んでいく。
 本庄先生は、その学習の意義を「AI化が進む、これからの時代において、ゼロベースで新しいものを構築するスキルがより求められるようになると思います。そしてアイディアを形にするプロセスそのものをマネジメントする力の育成も同様に重要になってきます」としている。

しかし、なぜ「外国人」なのか。

 「プロジェクトマネジメントは必ずしも『外国人』に拘ったものではありません。しかし新しいビジネスチャンスとして、まちがいなくインバウンドや、グローカル化が進んでいきます。そのような中で、英語に自信がないからといって怯んでいては、経営学部の本質的な教えにはならないでしょう。外国人は、日本人が'当たり前'のものにも、『めずらしさ』『日本らしさ』を敏感に感じます。書道をやったことがない学生はいませんから、私たちの'当たり前'が、外国人がお客様なら、大きな付加価値として変わることが経験できます。その付加価値がユニークネスであり、ビジネスでいうと競争優位性に代わります(本プログラムは無料)。また学生らも、大学とは全く異なる相手、やるしかない環境の中で、比較的短期間で成長実感が得られやすいのです」

外国人と対峙する、心理的ハードルを超える

 実践では、仮に英語が出てこなかったとしても、あくまでも「プロジェクトマネジメント」の授業。日本語を使ってもかまわない。受講生も十分に話せる学生は少ない。身振り手振りを使いながらも、外国人の笑顔を引き出していく。
 本庄先生は「学生らは、英語に関しては、ほとんど意識は向けずに、プロジェクトを進行していきます。そのこと自体が大きな意義です。英語の専門家ではないですが、学生の成長を考えると、既に言い尽くされたことだとは思いますが、道具としての英語の実践は、まだまだ浸透していないと思います。留学先とは異なり、日本で英語を話す、あるいは外国人とコミュニケーションをとる環境は、学生にとっては'アウェイ'ではなく'ホーム'です。安心して外国語を話せる環境です。また『歌舞伎』や『墨絵』を説明するわけではなく、扱っているのは『書道』です。これまでグローバル化という言葉からくる『文化理解』や『英語・外国語』に対する日本人の心理的ハードルや気構えが高すぎると感じていました」
 実際に外国人相手のプロジェクトは、多くの学生にとって、次々と目から鱗が落ちるような強烈な体験だ。とりわけ、「自分の英語力でもちゃんと外国人に通じた! 日本の魅力を伝えて喜んでもらえた!」という達成感は大きい。こうした成功体験は一生の財産として、さまざまな場面で応用でき、困難に立ち向かうときには背中を押してくれると本庄先生は言う。
 「言うまでもなく、グローバル人材として重要なのは自分の足で堂々と立ち、自分の言葉で意見が言える人です。完璧な英語力でなくてよいのです。これは理屈ではわかっていてもなかなか実践が伴いません。本授業ではそのキッカケになればと考えています。世界にいるノンネイティブの英語話者は、子どもであっても胸を張って話しています。もし1億2千万人の日本人が、臆せず世界と話すようになれば、日本の競争力は間違いなく伸びますし、もっと豊かで個性的な日本が見えてくると思います」
 「書道エクスペリエンス」のプロジェクトマネジメントを通じて、学生が自分の個性を磨き、自信をもって社会に羽ばたくための「軸」を得てほしい。プロジェクトに込めた本庄先生の思いだ。


(写真左)書道レクチャーの様子。たとえ簡単な英語でも「伝わった」という成功体験が大切だ。
(写真右)チーム内で役割分担をしながらプロジェクトを遂行する。その達成感が何よりの財産となる。


◆取材・執筆 田中洋子 株式会社エスクリプト
◆写真 遠藤貴也



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