グローバル人材育成の総合ソリューションパートナー 株式会社アルクエデュケーション
TOP >> 学校法人TOP >> アルクグローバル通信 (2019年1月)
                        

アルクグローバル通信 (2019年1月)

今月のテーマ記事

岡山大学世界で活躍する実践人を育む
グローバル・ディスカバリー・プログラム
<Curriculum Policy/Diploma Policy>

鄭幸子准教授

 多様なバックグラウンドや個性、能力をもつ学生が集い、グローバル社会を生き抜くために必要な実践力を養う4年制のプログラム──グローバル・ディスカバリー・プログラムを展開する岡山大学。日本人を含め、学生の国籍は20カ国を上回るというグローバルな環境で、学生たちはさまざまな価値観に触れながらグローバル社会のダイナミズムを体感している。この、地方都市の国立大学としては異例ともいえる取り組みについて、プログラムを担当する鄭幸子(ちょん へんじゃ)先生にお聞きした。
(写真)グローバル・ディスカバリー・プログラムを担当する鄭幸子准教授

グローバル社会を生き抜くためのプログラム

 世界で活躍できる「実践人」を育成する──。この構想のもと、岡山大学はスーパーグローバル大学創成支援事業(SGU)の指定を受けたPRIME (PRactical Interactive Mode for Education)プログラムを展開してきた。その中核を担うのが、2017年の秋にスタートした、グローバル・ディスカバリー・プログラム(Discovery Program for Global Learners/以下、GDP)。
 GDPは、英語で提供される独自の専修科目群、もしくは全学的な選択肢から関心のある科目を学生が選んで主に日本語で学び、学士(学術)が取得できるという4年制プログラムである。入学は春と秋の年2回。国内入試と国際入試を通じて各回30人前後の学生を、国内外から受け入れている。
 プログラム開始から1年を超えた2018年12月現在、GDPの在学生数は、2回の国際入試で入学した約60名と、初回の国内入試を経て入学した約30名の、合計約90人となった。学生の国籍はすでに20カ国を上回るが、GDPに入学したときから、日本人学生、留学生という分け方は極力排除し、各自のバックグラウンド、経験、個性、能力などを生かしながら、国籍や民族、年齢、性別で括られることのない、平等な学生として学べる環境を目指している。
 プログラムを担当する鄭幸子准教授は言う。
 「このプログラムでは、日本国籍の学生でも国際入試で受験できますし、外国籍の学生でも国内入試を受験できます。長年海外で過ごしてきた帰国生もいれば、ルーツは外国でも日本育ちという若者や、二重国籍、三重国籍の学生もいます。こうしたグローバル・ディスカバリー・プログラムの構成は、さまざまな人が暮らす日本社会の縮図でもあります。多くのグローバル人材は、『留学生』『日本人』という枠では捉えきれないほど多様化しています」
 こうしてGDPでは、互いの違いや個性を認め合う、グローバル社会にふさわしい学習環境が実現した。そのなかで学生は、教養力、専門力、語学力という「3つの基幹力」を養い、さまざまな実践的活動を通じて、異社会、異分野、異文化という「3つの側面」を学修。さらに社会で求められる思考力、対話力、創造力、行動力、統率力、決断力を身につけ、実践の現場で適切な判断をくだす力を獲得していくという。

ディスカバリー専修トラックはまるで「居ながら留学」

 GDPでは入学当初から各学生にアカデミック・アドバイザーがつく。1年次に、全員が理系・文系のリベラルアーツ科目をコアプログラムとして英語で履修できる。入学の段階で、英検準1級以上の英語力、日本語能力試験N1以上の日本語力が望ましい語学力とされているが、必要な学生には、英語や日本語の語学の授業も用意されている。
 2年目には、アカデミック・アドバイザーの指導のもと、主に英語で学ぶ「ディスカバリー専修トラック」と、主に日本語で学ぶ「学部・学科横断型マッチング・トラック」のいずれかを選択。以降、個人ベースで組み立てた履修プログラムを通じ、専門的な知識や技能を深めていく。
 このうち「ディスカバリー専修トラック」では、鄭先生をはじめGDPの専任教員が英語で開講する科目を、3つの科目群から選んで履修する。よって指導言語はすべて英語。何時間もかけて英書を読み込み、質問項目を書き出すといった宿題も出される。授業では英語でのディスカッションの機会も多く、日本に居ながらにして、留学体験ができる。
 「海外留学するには経済的に厳しい学生でも、留学に近い環境で思いきり勉強ができますから、多くの学生に挑戦してもらいたいと思います。地方都市で、これほどグローバルな環境で、しかも国立大学ならではの学費水準で学べる機会は貴重ではないでしょうか」(鄭先生)
 「ディスカバリー専修トラック」は、英語力に関しても、積極的な授業参加が求められる点でも、米国留学なみにハードだ。それでも、異なる視点や発想に触れながら、思考や知識を広げるディスカッション型の授業から学生は多くの知的な刺激を受けている。「もっとこういう授業を増やしてほしい」「授業時間をのばせないか」など、学生からの積極的な要望も多いという。
海外留学さながらの授業が体験できる
 一方、もう1つの選択肢、「学部・学科横断型マッチング・トラック」は、GDPのメリットがさらに生かされるトラックと言える。入学前に希望分野を確定する必要がないのは「ディスカバリー専修トラック」と同様だが、岡山大学において日本語で提供される科目数はさらに多いので、興味のある学部の科目を実際に履修した上で、より広い選択肢の中から自分の志望分野を検討できるというのが特徴だ。
 「ディスカバリー専修」と「学部・学科横断型マッチング」、どちらのトラックに進んでも、フィールドワーク、インターンシップ、海外留学、実験等の一つ以上を必修とした実践科目を履修。これもまた、世界で活躍できる「実践人」に向けた一歩だ。
(写真)海外留学さながらの授業が体験できる

大学のグローバル化には教職員の多様性が不可欠

 岡山大学のGDPは、知れば知るほど「多様性」がキーワードだと思えてくる。学内のグローバル化、多様化を進める大学は確実に増えているが、GDPの場合、単に外国人学生の受け入れを増やすのではなく、ジェンダーや社会的格差など、あらゆる面での多様性を歓迎している。槙野博史学長のリーダーシップのもと、全学的にも推進されているSDGs(Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標)ともGDPは非常に親和性が高い。「学生の多様化のみならず、教職員の多様化が非常に重要」と、鄭先生は言う。
 「せっかく学生のなかから斬新なアイデアが生まれてきても、教職員がそれを理解できないとせっかくのアイデアも生かされません。私はアメリカの複数の大学で教鞭をとってきましたが、アメリカの大学でも、学生に比べると教員の多様化は遅れがちで、例えば、決定権をもつ上層部ほど白人男性が多いと指摘されていました。似たような人ばかりが集まっていると、新しい考えはなかなか受け入れられず、変革は進みません。ですから大学がグローバル化したいのであれば、学生はもとより教職員にも多様性が求められるのです」
 GDPでは、教員の採用についても最初からダイバーシティを念頭に置いた。結果、バイリンガルやトリリンガルは当たり前、国籍も、宗教も、受けてきた教育も、職務経験も異なる教員が揃うこととなった。男女比率はほぼ半々。「たぶん本学全体で見ても、私たちのプログラムは、もっとも教員のジェンダーバランスが取れていると思います」と、鄭先生は胸を張る。
 さまざまな個性や価値観が、それぞれに際立ちながら、ぶつかり合いつながり合うグローバル社会のダイナミズム。その一端を、多様なバックグラウンドをもつ教員やクラスメートと学びながら、学生たちはリアルに感じ取っているようだ。
 岡山大学のオープンキャンパス。GDPの模擬授業では、いつものディスカッションが行われる。それを見ている高校生の表情が、だんだんと輝き始める。自分とあまり歳が違わない大学生が、目の前で堂々と英語で討論している。話している英語は完全に聞き取れないとしても、一人ひとりの学生が深く考え、しっかりと自分の意見を発言している熱気は伝わってくる。
 「個々の経験をみんなで共有し、理論と結びつけて考えたり、自分に引き付けて考えたりする学びは、本当におもしろい。そういう知的な探求に飢えている学生は、実はとても多いのです」と鄭先生。オープンキャンパスをきっかけに、渋る親を説得してGDPに入学した高校生もいるとのことだ。

グローバルプログラムを発展させていくために

 GDPの日本人学生は、絶対的多数ではない。現時点ではむしろ日本人以外の学生の方が多い。日本より何十年も早くからダイバーシティに取り組んできたアメリカの大学の学部にも勝るとも劣らないのではないだろうか。「例えば英語ひとつとっても、GDPではアメリカ英語だけでなく、イギリス英語、南アフリカの英語といったように、さまざまな英語に接することができます。この状況を上手に展開させていけば、この先、本学発で何か画期的なことができるかもしれません」
 日本社会でも、グローバル化は猛烈な勢いで進んでいる。入管法改正案が閣議決定され、日本で暮らす外国人は、今後ますます増えるだろう。そんな社会の現実に、大学は大きく遅れている。いま大学が変わらなければ、近い将来、変容する社会に対応した学びの場を提供することができなくなると、鄭先生の言葉に厳しさがこもる。

 「社会の変化を受けとめて大学が変われば、大学のステータスも影響力も向上するのです。しかしだからといって、時限付きで消滅するようなプログラムや、グローバル化をアリバイ作りのようにうたって学生を引きずり回すのは禁物です。
 高校の先生や保護者と話していて、『このプログラムはずっとあるのですか?』と聞かれることがありました。2015年にアメリカの大学から岡山大学に赴任した時には、質問の意図がよく理解できず、なぜそんな質問をするのだろうと疑問に思っていました。しかし安易にできては消えていく、グローバル関連のプログラムへの懸念なのではないだろうかと考えるようになりました。グローバル化も多様化も、それこそ持続可能な開発目標(SDGs)として継続的に発展させていけるよう、腰を据えて取り組むべきで、担当者に何もかも押しつけるのではなく、チームや全学体制でコミットすることが不可欠だと、経験からつけ加えたいと思います」

 地方の国立大学として、ダイバーシティを標榜するGDPが他大学のロールモデルのひとつになれば嬉しい。関心をもった大学には遠慮なくGDPを参考にしてもらい、自分たちも他大学から学びたいと鄭先生。「大学間で情報を共有し、切磋琢磨して、これからの大学教育をより時代に即したかたちで発展させていけたらと願っています」


◆取材・執筆 田中洋子 株式会社エスクリプト
◆写真 百々岳夫



ページトップへ