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アルクグローバル通信 (2019年8月)

今月のテーマ記事

京都外国語大学オンリーワンのリーダーシップを養う
「京都外大リーダーズ・スクール」
<Curriculum Policy>


語学力やコミュニケーションスキルと並び、グローバル人材の重要な資質とされるリーダーシップ。この言葉から、私たちは颯爽と組織の先頭を走るリーダーの姿を思い浮かべるが、実際には誰のなかにも、その人らしいリーダーシップが眠っている。実践のなかで学生のリーダーシップを養う、京都外国語大学のリーダーズ・スクールの取り組みを、岸岡洋介先生に聞く。

(写真)外国語学部教養教育等講師の岸岡洋介先生

21の大学・短大が参加するリーダーシッププログラム

 2月のサイパン。南国の小学校では、日本から来たお兄さんやお姉さんたちを迎え、いったいこれからどんな楽しいことが始まるのかと、子どもたちの顔が期待に輝く。
 日本の大学生たちは、1週間にわたって地元の家庭に滞在しながら、5、6名から10名程度のグループ単位で現地の小中学校に入り、それぞれ配属されたクラスで先生のアシスタントをしたり、子どもたちと遊んだりして触れ合っていく。そしてプログラムを通じて、各人、実際の授業のコマをもらい、子どもたちを相手に、自分の得意分野を生かした授業を実践することになる。
 一見、よくある大学の国際交流プログラム、異文化体験プログラムだが、実は始めから終わりまで、丸ごとリーダーシップの実習だ。このプログラム、「リーダーシップ・チャレンジ in サイパン」を主催するのは、西日本学生リーダーズ・スクール(University Network for Global Leadership Development in West Japan: UNGL)。2012(平成24)年度の文部科学省大学間連携共同教育推進事業としてスタートした、リーダーシップ養成プログラムで、2019年3月現在、21の大学・短大が連携校として名を連ねている。京都外国語大学もそのひとつだ。
 「『リーダーシップ・チャレンジ in サイパン』には、本学からも毎年10〜20名が参加しています」と、岸岡洋介先生(外国語学部教養教育等講師)。
 「学生は大学混成のチームに分かれて、10校ほどの現地受け入れ校に入ります。そこで、個人としては日本で考え準備してきた"授業"を行い、チームとしては最終日に日本文化のイベントを成功させるという、2つのミッションにチャレンジします。
 ただし、期間中を通して、誰も、何も、一切指示はしません。同行する教職員や学生スタッフは学生の自主的な取り組みを見守ることに徹し、受け入れ先の学校の先生たちにも、同じことをお願いしています。リーダーシップ開発では、まさにそこが大事なのです」
 多くの学生は、親や教師の指示で行動することに、子どもの頃から慣れきっている。ところがこのプログラムでは、自分から働きかけ、交渉し、自発的に動かない限り、まったく何も始まらない。
 「どうすればいいか分からず、初めはぼんやり時間を過ごすだけという学生もいます。でも毎日何時間も学生同士でミーティングを重ねるなかで、自分の行動を見つめ直し、改善すべき点に気づき、だんだんと主体的に動けるようになっていきます」

(写真)サイパンのプログラムでは活動すべてがリーダーシップの訓練となる。

GLSの学生たちで運営するリーダーシップ研修会

 京都外大リーダーズ・スクール(Gaidai Leaders School: GLS)は、岸岡先生が京都外国語大学に所属した2013(平成25)年9月から本格的な活動を始めた。UNGLの「リーダーシップ・チャレンジ in サイパン」や他の研修に参加するだけでなく、春にはGLSが主催して、「学生リーダーズ・スプリングスクール」も実施する。京都郊外で行うこの2泊3日のリーダーシップ研修会には、UNGL連携校から70名ほどが集結。GLSとUNGLの双方向ネットワークで、リーダーシップの実習の機会が広がっている。
 研修ホストとして臨む「スプリングスクール」は、GLSにとって年間最大のイベントだ。大テーマは「平和とリーダーシップ」。この大テーマに基づき、経済格差、都市開発、ユニバーサルデザイン、障害をもつ人との関わりなど、平和を脅かす課題や、平和に資する論点を毎回いくつか取り上げる。そのうえで、参加する学生のリーダーシップが養えて、同時に多様な側面から平和に関する知識や感覚が身に付く活動内容を、学生たちで練り上げていく。
 ある年は貿易について取り上げた。豊かな地域と貧しい地域がある世界で、モノはどう流れ、どう交換されていくのか。貿易ゲームを通じて体験し、協調のあり方をみんなで探った。議論をする場面ももちろんあるが、研修は基本的に、フィールドワークやシミュレーション、グループワークなどの体験型。その資料を作るのも学生たちだ。
 「『スプリングスクール』の準備にはほぼ丸1年を要し、その間、学生たちは驚くほど自主的に勉強します。それも自ら問題を見つけ、自ら回答を探すという積極的な学びです。初めは、『これをやったら楽しいんじゃない?』と、自分たち目線で話していたのが、いつの間にか『参加する学生たちみんなの学びに役立つように』という、相手目線に変わっていくのです。その変化が、見ていて非常におもしろい。ようやく気づいたな、変わってきたなと思います」(岸岡先生)
 リーダーシップ研修に参加することだけが、リーダーシップを養う手段ではない。GLSの学生たちは、実際にひとつのプロジェクトを動かすなかで、主体性、協調性、課題解決力、交渉力、忍耐力、責任感など、年間を通して毎日のように、さまざまな角度からリーダーシップのチャレンジを経験しているのである。

自分のよさ、得意なことが、リーダーシップになる

 GLSでは1年間の活動の初めに、「GLSの活動を通してどんな人になりたいか」という目的と、「それを達成するためにどう行動するか」という目標を、一人一人が考えて発表する。

 「今まで思ったこともなかったので難しかった。でも、"考えたこともなかった自分"を見つけることができた」
 「こんなに自分自身と向き合ったことはない。とても悩んだけれど、自分らしい目標ができあがったので、がんばりたい」

 どちらも1年生の新メンバーの感想だ。この最初の気づきこそが、リーダーシップに欠かせない主体性へと育っていく。

 「最初は一参加者だった学生が、サイパンでのプログラムでも、京都でのスプリングスクールでも、どんどんスタッフとして参加するようになっていきます。リーダーシップ研修では、次の進歩に続く"振り返り"が非常に大きな意味を持ち、学生スタッフは、参加学生の気づきをサポートするという、とても難しい役割に挑戦することになります。みんなすごく悩みながら取り組んでいますが、仲間とのコミュニケーションの取り方、人が素直に耳を傾けてくれる話し方、全体への目配り、コンフリクトをどう解決するかなど、活動を通じて出会うすべてが、リーダーシップの訓練になっています」
 最近は大学の授業でも盛んなグループワーク。なかにはグループ内で自分の役割が見つけられない、意見を言うのが苦手など、悩みを持つ学生もいる。そういうとき、自分もみんなも誰一人取り残されることなく、堂々とその人なりの力を発揮し協働できるよう、全体の環境を整える。それができる人こそ、真のリーダーシップの持ち主だ。授業でも、サークルでも、就職してからも、自分が関わる集団のなかで、そうした役割が果たせる人になってほしいというのが、GLSに関わる岸岡先生の思いだ。
 「授業で、『自分にはリーダーシップがあると思う人』と聞いてみると、手をあげる学生は1割ほどです。『人をまとめることなんて自分にはできない』『人を動かすなんてムリ』。今までの経験で刷り込まれた残念なリーダーシップの概念です。
 リーダーシップは誰にでもあります。よき聞き手になるのもリーダーシップ。人が気づかない細かなところに気づいてフォローするのもリーダーシップ。組織が目標に向かうとき、誰でも自分にできることで貢献できるのです。必要なのは、いろいろな実践を通して、あるいは仲間の意見を聞いて、自分のよさや得意なことを見つけること。そのよさを伸ばし、足りないところを補うことが、その人らしいリーダーシップの原点です。それはとりもなおさず、自己肯定ということですから、正しいリーダーシップの育成は、日本の若者が抱える不安や自信のなさ、心の闇を打ち砕くことにもなると僕は思っています」  GLSが和歌山県上富田町から依頼を受けて始まった英語交流事業では、町内5つの小学校で、学生が英語の授業を1コマ担当。外国人への道案内、英語で買い物、夏休みの思い出を話そうなど、楽しく英語に触れてもらう授業の実践を続けている。学生主体の取り組みであることだけで、こうした活動も立派なリーダーシップの実習の場なのだ。
 リーダーシップを育てる機会はどこにでもある。そのなかから、「学生が本気になれるフィールドをたくさん作ること」こそ、指導者の役割だと岸岡先生は考えている。
(写真)子どもたちが「楽しく学ぶ」ための仕掛けがまさにリーダーシップ実践だ。


◆取材・執筆 田中洋子 株式会社エスクリプト
◆写真 京都外国語大学



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