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アルクグローバル通信 (2019年9月)

今月のテーマ記事

横浜国立大学日本に対する信頼感を醸成する
留学生と地域コミュニティーとの交流
<Curriculum Policy>


多様な国籍や文化背景の人々が、日本社会のなかで共に生きていく時代が近づいている。10人に1人が留学生という横浜国立大学と、地域コミュニティーの間でも、交流や協働の機会が増えてきた。町の人々との飾らぬ触れ合いを通して、信頼や相互理解の芽が育っている。

(写真)国際教育課 仁田知樹課長

大学の国際性を生かして地域に貢献する

 学部と大学院を合わせて、およそ1万人の学生が学ぶ横浜国立大学。学生全体の約1割を、76の国と地域からの留学生が占めている。10人に1人が留学生だ。キャンパスでは、いろいろな催しを通して留学生との親睦を深めるサークルや、留学生サポートに取り組むサークルが活動し、民族や国籍を越えて学びと経験をシェアする、友好的でのびやかな環境をつくっている。
 留学生を軸とした国際交流のベクトルは、キャンパスの外にも向いている。もともと横浜は国際都市としての歴史が長い。横浜国立大学がある横浜市保土ヶ谷区も、地域の国際化振興の一助にと、留学生との交流に前向きだ。留学生と一緒にイベントを行いたい、インバウンド対策について留学生の意見を聞きたいといった、さまざまな問い合わせが、市、区、地域団体、学校などから飛びこんでくる。
 その際、大学側の主な窓口となるのが国際教育課だ。仁田知樹課長は次のように話す。
 「本学では、現実の社会との関わりを重視する『実践性』、新しい試みを意欲的に推進する『先進性』、社会全体に大きく門戸を開く『開放性』、そして海外との交流を促進する『国際性』を大学憲章に掲げています。当然、地域貢献も国際交流も、本学の方針に合致しますし、地域の人々と留学生の交流は、それ自体、本学の国際性を生かした地域貢献でもあります」
 留学生が地域コミュニティーに入って行う活動には、2つのパターンがある。地元の高校でティーチング・インターンをするなど、授業の一環として行うケースがひとつ。同学には、英語の授業だけでディプロマが取れる4年間の学部プログラム、Yokohama Creative-City Studies (YCCS)があり、留学生を中心に学んでいるが、そのプログラムにも、地域と関わりを持つ活動が組み込まれているという。
 一方、授業とは関係なく、大学が地域からの要請を受け、その都度、留学生の参加を募る交流活動も多い。その一例を紹介しよう。

小学校の「総合的な学習の時間」を留学生が支援

 横浜国大の留学生会館のすぐそばに、地域の子どもたちが通う小学校がある。留学生会館にはいろいろな国の人たちが出入りするので、子どもたちは日頃から興味を持っていたが、何も接点がないので、留学生と言葉を交わすことはなかった。
 「ところが今から2年ほど前、6年生のあるクラスが『総合的な学習の時間』のなかで、外国人旅行者に向けて、地元の商店街を紹介するアニメを作ることになったのです。うちの留学生に力を貸してもらえないかと、区役所を通して国際教育課に連絡が入り、もちろん快諾しました」(仁田氏)
 こうした場合、国際教育課では、留学生窓口を訪れる留学生に声をかけたり、留学生用のメーリングリストで告知したりして、その都度参加を募っている。このときも、バングラデシュ、インドネシア、イラン、マレーシア、パキスタンなどからの留学生が7、8名、呼びかけに応じて集まった。
 授業当日、大学の職員と共に小学校の教室を訪れた留学生たちを、ちょっぴり恥ずかしそうなたくさんの笑顔が迎えてくれた。興味津々の子どもたちを前に自己紹介をしたところで、さっそく留学生への質問が次々に飛び出した。
 「商店街でよく買うものは何ですか?」
 「買い物をしているとき、何か困ったことはありましたか?」
 「お店の人に英語が通じないときは、どうしますか?」
 「商店街でこれを売っていたらいいな、と思うものはありますか?」
 元気いっぱいの子どもたちに留学生が応え、いつのまにか緊張もほぐれて、互いにすっかり仲良くなった。
 3カ月後、再び教室を訪れた留学生に、子どもたちは自分たちで作ったアニメの絵コンテと、オリジナルキャラクターの絵を、何通りか見せてくれた。外国からのお客さんに商店街を知ってもらうために、どの絵コンテが一番分かりやすいか、どのキャラクターがアピールするか、留学生の意見が聞きたくて、再訪を待ちわびていたのだ。片言の英語も交え、一生懸命に気持ちを伝えようとする子どもたちに、留学生たちも真剣に知恵を絞りアドバイスをしていった。
 小学生とのこうした協働作業は、結局、4回におよんだ。最後は子どもたちがアプリを使って作り上げたアニメーションを見ながら、効果音や吹き出しについても、意見を出し合った。参加した留学生は、その家族まで入れて延べ33人。「子どもたちがとても積極的で、一緒にやっていて楽しかった」「ぜひまたこういう活動に参加したい」と、異口同音に述べている。

外国人と日本人が、同じコミュニティーの一員となる日

 小学校での事例は比較的長期間だったが、もっと短い活動や、単発の活動もある。
 南区のある商店街では、インバウンド対策のワークショップに横浜国大の留学生を招き、外国人旅行客を呼び込むための課題について意見を求めた。中国、韓国、ベトナムの留学生6名が商店街を歩き、外国語の案内板や、簡単な会話を数カ国語で書いた指差しボード、Wi-Fi環境の必要性などを指摘。商店街では留学生の意見も参考にして、この9月に横浜で行われるラグビーワールドカップの試合や、来年に迫った東京五輪に向けて、少しずつインバウンド対策を進めている。
 2017年からは、中区の中学校が行う多文化共生プログラム「デジタル・ストーリー・テリング(DST)プロジェクト」に、留学生を含む横浜国大の学生が協力。外国にルーツを持つ中学生たちの、短い映像制作をサポートしている。
 「留学生にとって、日本の人と触れ合う機会は、勉強以上に貴重なものかもしれない。本当によい日本の思い出ができたと、みんなとても喜んでいる」と仁田さん。地域の人たちから聞こえてくるのも、「知らない国の人と知り合えて世界が広がった」とポジティブな感想がほとんどだ。
 「本学ではいま、留学生の日本での就職促進に取り組んでおり、企業や経済団体、自治体などへの働きかけに力を入れているところです。もちろん留学生に対しても、インターンシップやビジネス日本語のプログラムを提供し、日本特有の企業風土や社会人マナーを教えています。しかし、日本についての理解を促進する、日本人への親しみや信頼感を育てるという点では、同じ町に暮らす人たちとの飾らない交流が、とても役に立っていると思います」
 全国の日本語学校が留学生に推薦したい大学や専門学校を選ぶ、『日本留学アワーズ』という賞がある。横浜国大は今年、その東日本地区国公立大学部門で、3年連続となる大賞を受賞した。このアワーズが、「留学生の受け入れ環境の整備」を目的に設立された賞であることを知ると、大賞の重さがよく分かる。
 「結局、本当にグローバルな大学かどうかは、留学生の数だけでは測れないし、地域の国際化というのも、ただ外国人の数を増やすことではないと思うのです。留学生と地域の人たちが、協働したり共感したりするなかで、少しずつ両者の距離が縮まって、同じコミュニティーの一員となっていく。そのあたりが、本学が目指す国際化ではないかと思っています」
 これまでは外部からの要望を受けて活動することが多かったが、今後は大学側からの働きかけも徐々に進め、できるだけ多くの留学生に、多様な地域交流の機会を提供したいとのこと。地域貢献という文脈の中で、より一層、横浜国立大学らしい国際性を発揮していくことになるだろう。

(写真)近隣の盆踊りイベントに参加し、地元住民と交流の輪を広げている


◆取材・執筆 田中洋子 株式会社エスクリプト
◆写真 遠藤貴也



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