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アルク総研ニュース(2019年10月)

今月のテーマ記事

中央大学留学生と共に学び、体験する
全過程を外国語で学ぶグローバル教育
<Curriculum Policy>


中央大学は、8学部、7大学院研究科、2専門職大学院研究科を擁する総合大学。1885(明治18)年に「英吉利法律学校」として創設され、法の実地応用に優れた人材の育成を目指して、「實地應用ノ素ヲ養フ」を建学の精神としてきた。経験を重んじ、実学教育を大切にする伝統は、現代のグローバル人材教育のなかにも生きている。

(写真)全学連携教育機構長の武石智香子商学部教授

全課程外国語で実施するグローバル教育

 中央大学では、幅広い学問領域を網羅する総合大学の特性を生かし、2003年からFLP(Faculty Linkage Program)を進めてきた。所属学部で主専攻を修めるかたわら、より学際的に複数の専門知識を身につけられるとして、学生からも支持されている。中央大学を志望する高校生の間でも、FLPの認知度は高い。
 FLPを統括するのは同学全学連携教育機構。ほかに、外国人留学生向けの日本語教育プログラム、そしてグローバル人材育成にフォーカスしたGlobal LEAP (Learning for Employability and Advanced-study Program) プログラムも展開している。
 Global LEAPは英語で行われる1年間のプログラムで、2年から4年の学部生から履修希望者を募り、選抜を経て実施されている。ASEANと中国・韓国の提携8大学との間で交換留学を行い、前期は中央大学で日本人学生と留学生が一緒に、後期は中央大学の学生が提携大学に留学して協同学修を行う。中大生は留学中に、2週間の「専門インターンシップ」を体験して国際就業力を養うが、これもルーブリックで評価され、他の科目と同じく単位が付与される。
 「インターンシップを科目として導入することも含めて、LEAPは小さな'とんがった'プログラムだからこそ、さまざまな試みに取り組むことができた」と、全学連携教育機構長を務める武石智香子商学部教授はいう。
 だが2017年にスタートしたGlobal LEAPは、もともと4年間という期間限定のプログラムであるため、2020年度をもって終了することになる。これに代わるのが、昨年始まったグローバルFLP (Global Faculty Linkage Program) だ。
 グローバルFLPは、FLPやGlobal LEAPの経験をもとに拡充された、グローバル教育プログラムである。全課程が外国語で行われる点も、日本人学生と留学生が一緒に学ぶ点も、座学と海外での体験型学修を二本柱とする点も、Global LEAPと同じだ。
 一方、グローバルFLPでは学部連携により、各学部が英語等で提供している科目や、各学部が独自に実施する海外インターンシップ、単位付き留学なども、「学部指定科目」としてプログラムに組み込まれている。Global LEAPの設置科目も取ることができ、Global LEAP以上に広い学びが可能だ。

グループ討論主体の「グローバル・テュートリアル」

 グローバルFLPではまた、外国語による少人数のグループ討論を通じて学修を進める「グローバル・テュートリアル」を、必修科目に据えている。その目的は、学部で修得する専門知識や技能を、異文化環境において英語等で活用する力を育てること。6名のテューター(教員)が6つのクラスを設置しているが、扱う内容は政治、経済、社会、時事問題など、社会人としての思慮や社会常識を育むものとなっている。
 さらに、中国との関係が今後も重要度を増すとして、「グローバル・テュートリアル」では中国人教授のもと、中国語で討論するクラスもひとつ設けている。英語ならまだしも、中国語で議論に参加できる日本人学生などいるのだろうか? 武石先生に聞くと、意外な答えが返ってきた。
 「まったく中国語のバックグラウンドをもたない日本人学生もいますよ。インテンシブ中国語のクラスなどで猛勉強し、短期間で履修条件を満たして立派に参加しています。中国に関心があって、将来、中国関係の仕事をしたいとか、日中の架け橋になりたいとか、高い意識をもって頑張っているのです。中国や台湾からの留学生に伍して、活発に発言している姿を見ると、自分の大学の学生ながら感心します」と、先生もうれしそうだ。
 どの学部にもネイティブスピーカーの先生はいて、英語で授業も行っている。それでもグローバルFLPには、いろいろな国の留学生と、もっと外国語で話したい、一緒に討論をしたいという学生が集まってくる。「グローバル・テュートリアル」を軸とするグローバルFLP自体、そうした学びの場を目指して作られたプログラムだからだ。
 今から4年前、グローバルFLPの立ち上げに追われていた武石先生の目に、ある学生が書いた論文の一文が飛びこんできた。学生自身の言葉で、「留学生と日本人が共に学べるゼミがほしい!」と書かれていたのだ。学生も同じことを考えていたのだと、背中を押された気がしたと、先生は感慨深そうに語ってくれた。

実学教育の強みが生きる「専門インターンシップ」

 グローバルFLP でもGlobal LEAPと同じく、2週間の「専門インターンシップ」が、「グローバル・テュートリアル」と並ぶ重要な柱となっている。座学で8単位以上を取得したあと、自分の都合のよい時期に、自分の関心分野について、アジアに限らず海外で実務を経験するというものだ。グローバルFLPの初年度に当たる昨年は中国で2名、今年の春学期にはアメリカで1名が、先陣を切って「専門インターンシップ」を経験した。
 ただしこのプログラム、最初から何もかもがお膳立てされているわけではない。「専門インターンシップ」の背景には、学生が自ら選択する学部での学びに、短期の海外インターンシップをプラスすることで、伝統の実学教育を生かした中央大学らしいグローバル教育を実現するという理念がある。学生の成長を促す正規の科目である以上、研修先を探すのも、問い合わせをして交渉するのも、基本的にすべて学生自身だ。
 「もちろん容易ではありません。でも働いてみたい企業を自分で探し、アプローチをして、断られてということを繰り返しながら、学生たちは社会に出て必要となる知恵や、大人としての態度を身につけ、国際社会で働く大変さを知るのです。断られることを前提にトライしなさい、断られることが学びですと、あらかじめ話してあるので、本人たちも果敢に挑んでいます」(武石先生)  それぞれ中国の日系企業でインターンをした学生は、次のように振り返る。
 「インターンシップを通して、中国語、英語、日本語が飛び交うビジネスの最前線を見ることができた。世界は私の知らないことであふれていると、改めて思った」(総合商社)
 「日本語で会議をする中国人の語学力に感心した。日本人社員のみなさんも、学生の私に本気で向き合ってくれた。自分で意志決定をしてインターンに入ったからこそ、頑張れたし楽しめた」(外食産業)
 未知の世界に1人で飛びこむ経験には試練もあるが、「2週間後にはみんな、見違えるほどしっかりした顔つきになって帰ってくる」と武石先生。難しいことをやり遂げることが貴重な成功体験となって学生を成長させていると、手ごたえを感じている。
(写真)カンボジアでのインターンシップ

多様性との出会いがもたらす化学反応

 グローバルFLPは受講希望者を全学部から募り、語学力などをもとに選抜している。1年次後期以降であれば、どの学年からでも始められ、座学で8単位以上、海外での体験型学修で1単位以上の修得をもって、修了要件を満たす。学部の学びや国家資格の勉強などとの両立を図りつつ、それぞれの状況に合わせて履修できる点は、かなりフレキシブルだ。2018年度前期から2019年度後期までで、96名の学生が登録し、それぞれのペースで履修を続けている。
 大学レベルの講義も、外国語も、今はその気になればいくらでもオンラインで学ぶことができる時代だ。それでもなぜ大学が必要なのか。武石先生は、「大学という場にさまざまな人が集まって起きる化学反応こそが、人間を成長させるからではないか」と考える。留学生と共に学び世界を身近に感じるグローバルFLPは、中央大学が描く新時代の大学のイメージを体現しつつ、多様性と機会に満ちた学びの場として、進化を続けていくだろう。
(写真)日本人学生と留学生がともに東北で地域調査を行い、自治体にプレゼンを行った


◆取材・執筆 田中洋子 株式会社エスクリプト
◆写真 遠藤貴也



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