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アルク総研ニュース(2019年11月)

今月のテーマ記事

亜細亜大学日中間の架け橋となる人材を育成
産学連携で進める「アジア夢カレッジ」
<Curriculum Policy/Diploma Policy>


アジアをはじめ世界で活躍できる人材の育成を目指し、早くから留学プログラムや語学教育に力を入れてきた、東京・武蔵野市にある亜細亜大学。半年間の中国留学を含む4年間一貫のキャリア教育プログラム「アジア夢カレッジ」が、開設からまもなく20年を迎える。そのねらいや成果について話を聞いた。

(写真)AUCPの運営委員長を務めるアジア研究所の九門大士教授

「中国」がキーワードのキャリア開発プログラム

 「キャリア開発中国プログラム」とのキャッチフレーズを掲げる亜細亜大学の「アジア夢カレッジ」(Asia University China Program: AUCP)は、経営学部(経営学科)、経済学部、法学部、国際関係学部の4学部を対象としたプログラム。AUCPに参加する学生は4年間、それぞれ自分の専攻との「ダブルメジャー」の形で学び、二つの専門性を身に付けていくことになる。
 「以前は、中国の文化的な面に関心をもって参加する学生が多かったのですが、最近はキャッシュレスやITにおける先進国として、経済的な面からの関心を抱いている学生が増えているように感じます」。同大アジア研究所教授でAUCPの運営委員長を務める九門大士先生はそう語る。
 AUCPに参加するには、入学後に行われる選抜試験を受ける必要がある。といっても、試験は書類と面接のみで、基本的な判断基準は「参加への意欲があるかどうか」だという。
 「面接では、主に『なぜ参加しようと思ったのか』『中国で何をやりたいのか』といったことを聞いています。中国語力もその時点では問わないので、入学後にゼロからはじめる学生がほとんどですね」
 その分、プログラム開始後のカリキュラムはかなりハードだ。入学間もない時期から、徹底的な中国語トレーニングがスタート。その年の11月までに中国語検定3級に合格することが求められる。合格できなかった場合は、翌年春からの留学プログラムには参加できず、AUCPそのものからもリタイアすることになるという。検定3級は日常会話レベルとされるが、学習スタートからわずか半年あまりの学生たちには、なかなか高いハードルと言えるだろう。
 「例えば昨年度なら、AUCPに参加した学生30名のうち10名は検定合格に至りませんでした。ただ、だからといって彼らの中国への関心が、そこで途絶えてしまうわけではありません。過去にもAUCPを抜けた学生が、その後、大学の別のプログラムを利用して中国に留学したという例をいくつも聞いています」。九門先生はそう話す。

現地で中国人学生と学び、インターンシップを経験

 一方、無事に検定試験に合格した学生たちは、1年生のカリキュラムを終えた3月から、いよいよ留学プログラムがスタート。中国東北地方の港湾都市・大連へと向かう。
 留学先は、中国語教育においては国内トップクラスと言われる大連外国語大学。学生寮で中国人学生のルームメイトと共同生活を送りながら、実践的な中国語教育を受ける。語学だけではなく、中国の伝統文化を学ぶ授業や、現地の企業人から中国のビジネスについて話を聞く機会も設けられているという。
 さらに、この留学プログラムの最大の特色は、「学ぶ」だけではなく「働く」経験が組み込まれていること。現地の日系企業や領事館での、約8週間のインターンシップだ。
 「製造業から金融業、旅行業などのサービス業まで、実にさまざまな職種の企業に協力をいただいています。中国語を使って、現地の人たちと一緒に働くという経験をすることで、学生たちの様子ががらっと変わりますね」
 そうした変化や気付きを可視化していくというねらいから、留学期間中には自分自身のキャリアや目指すもの、価値観などについて、中国人学生とのディスカッションを通じて考える「日中キャリア研修」の機会も設けている。
 実施は留学直後の3月、インターンシップ前の5月、インターンシップ終了後の8月と、3回にわたる。日本人学生だけではなく中国人学生も参加するということもあり、価値観の多様性に触れて自分の強みを再発見することにもつながっているという。中国では学生へのキャリア教育はまだあまり一般的ではないため、現地の学生や教員たちからも好評を得ており、この研修をきっかけにキャリア教育や人材育成に関する同大学との日中共同研究も2018年から始まっているそうだ。
 「旅行社などにお任せの留学やインターンシップにするのではなく、その前後も含めた流れを重視したい。帰国後も、インターンシップ前に立てた目標の何が達成できて何ができなかったのかなど、留学やインターンシップを通じて学んだことを整理し、可視化・言語化させる機会を授業の中に設けています。そうして「自己認識」を深めるようなフォローアップを充実させることで、学生たちの将来につなげていきたいと考えているのです」と九門先生は言う。
 中国語レベルにおいては、中国政府が認定する中国語検定「漢語水平考試(HSK)」の5級を取得することが留学期間中の目標とされている。さらに帰国後、もっと中国語力をアップさせたい、もっと中国のことを知りたいと、大学の他のプログラムを利用して再度1年間の中国留学の道を選ぶ学生も少なくないという。

(写真)金融機関でのインターンシップ。就業体験で学んだことを可視化・言語化する機会も豊富に設けている。

外部の人材との関わりから、多角的な視点を得る

 帰国後は、卒業時までに「中国語専攻の学生以上のレベル」に到達することを目標に中国語のトレーニングを継続。さらに3年生からは、それぞれが興味・関心のあるテーマを決めて、より専門的な研究を進めていくことになる。5〜10人程度の少人数グループに分かれるゼミ形式の授業が中心だ。
 「例えば、中国人観光客の増加について調べている学生なら、実際に観光客が多い地域の自治体に話を聞くなど、フィールドワークに出ることもかなり多いですね」  さらに毎年2月には、学生たちがそれぞれの成果を発表する「成果報告会」が開かれる。留学を控えた1年生は、そこまでの学びを通じて中国語での自己紹介や留学・インターンへの意気込みを、2年生は留学中のインターンで得たこと、学んだことを、そして3・4年生は自分が選んだテーマについての研究結果を、AUCP参加のみんなの前で報告する。成果報告会の最大の特色は、教員だけではなく中国関係の企業で働くビジネスパーソン、元 中国領事やJETRO(日本貿易振興機構)職員など、外部の社会人たちが出席し、学生たちの発表にコメントをしてくれることだ。
 「学生たちの発表は、どうしても頭の中だけで考えた内容になりがち。『もっと地に足のついた調査をすべきだ』など、非常に手厳しいコメントも多いですね(笑)。ただ、それだけに学生たちにとっては、将来的にも役立つアウトプットの機会をつくれていると思っています」
 3年生にとっては、卒業論文執筆に向けた研究発表ということにもなるが、さまざまな立場の人からの意見を聞けることで「通常の論文指導に加えて多角的な視点が得られる」といえる。大学や留学先の学校に閉じこもるのでなく、企業人など外部の人との接点を数多く持てるのが、「産学連携」プログラムならではの大きな特長と言えるだろう。

日中をつなぐ「パイプ役」になれる人材を

 AUCPスタートからまもなく20年。最近では「AUCPに参加したくて亜細亜大学を選んだ」という学生も出てきている。「オープンキャンパスなどで学生の体験談を聞いて、自分も挑戦してみたい、と感じてくれるようです」と九門先生は言う。
 中国だけではなく、他の国やアジア全体に関心を抱く学生も増えてきている。卒業生の中には、商社やメーカーなどに就職して中国で働いているケースはもちろん、ベトナムなど他のアジア諸国で働いているケースも増えているそうだ。
 「AUCPは中国に特化したプログラムではありますが、多様性の中で『価値観の違う人と協働する力』は、4年間を通じて確実に身に付く能力のひとつ。そしてそれは、もちろん中国以外の国でも十分に通用するものだと思っています」
 今後に向けての課題となるのは、インターンシップなどに協力してくれる企業のさらなる開拓だ。当初はほとんど教職員たちの"飛び込み"で人脈を切り開き、今につなげてきた。
 「成果報告会には毎回、企業の方が10人以上は来てくださいます。インターンシップでご協力いただいた企業の方も多いですし、週末の開催にもかかわらずこれだけ集まってもらえるというのは、単なる『大学のお手伝い』ではなく、アジアで活躍する人材を育てる『パートナー』なんだ、という意識を持っていただけているからではないかと考えています」
 その「パートナー」である受け入れ先企業からの要望もあって、以前は1カ月だけだったインターンシップの期間を、2019年度からほぼ倍の8週間に伸ばした。学生にとってより意義あるプログラムにしていくための、新しいフェーズに入ったと感じているという。
 「中国が世界第二の経済大国になった今、日中双方のことをよく知り、二つの国をつなぐパイプ役になれる人材が、ますます必要になっていくでしょう。その意味で、AUCPの役割もいっそう重要になってきている。強くそう感じています」

(写真)中国の学生とともに学んだ経験は、その後のキャリア形成に重要な意味を持つだろう。


◆取材・執筆 仲藤里美 株式会社エスクリプト
◆写真 遠藤貴也



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