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セミナーレポート
大学のグローバル化 情報交換セミナーVol.36

大学におけるグローバル英語教育を考える
~学部横断統一英語プログラム見直しに向けて~

急激に進む国際化の中でグローバル人材の育成が求められており、それを受ける形で英語教育においても大きな変化が続いております。大学や高等専門学校等の教育現場でも学部横断を見据えた英語教育改革、さらにはその見直しなど様々な取り組みが進められています。また、国立大学では2022年度から第4期中期計画が始まることもあり、新カリキュラム策定や見直しの最中という先生方も多いかもしれません。
そのような中、宇都宮大学様では、2009年に基盤教育センター英語プログラムであるEPUU(English Program of Utsunomiya University)を創設されて以来、「浴びる英語」をスローガンに、英語コミュニケーション能力育成を目指した英語教育を実施してこられました。そして現在、さらに変化する国際化社会の状況とその中で英語教育のあるべき姿を踏まえ様々な角度からそのプログラムの見直しを行っていると伺っています。今回のセミナーでは基盤教育センターの副センター長で、EPUUのプログラムコーディネーターも務められる三村千恵子先生をお招きし、その取り組みの一部をご紹介いただきました。




講演者:三村千恵子先生
国立大学法人宇都宮大学 大学教育推進機構基盤教育センター
EPUU (English Program of Utsunomiya University)
プログラム・コーディネーター/教授

宇都宮大学の概要

宇都宮大学様は、農学部・地域デザイン科学部・国際学部・工学部・共同教育学部の5学部、合計4017名の学部生(2021年5月1日現在)、さらに地域創生科学研究科、教育学研究科、連合農学研究科、旧研究科(2021年3月まで)からなる大学院で構成されています。中規模の国立大学として地方貢献型大学と位置づけられ、アクティブラーニングや課題解決型プログラムを通じて、知識と実践の融合を目指すことを教育方針としています。

EPUUの概要

EPUUを支える教員チームは、三村先生を含む10名の専任のメンバーと11名の非常勤講師から構成されています。授業を担当する教員は全員がネイティブスピーカー、または海外居住経験のある日本人の教員である点が大きな特徴です。また日本人専任教員は、全員が海外の大学院で TESOL (Teaching English to Speakers of Other Languages、英語を母国語としない人への英語教授法) あるいは、応用言語学(Applied Linguistics)の修士号を取得した英語教育のプロでもあります。多彩な言語活動を通じて、徹底的にコミュニカティブな英語教育を行うことをモットーとしており、授業はアウトプット中心で実践的かつ学生が楽しめるように常に工夫されています。
EPUUでは1、2年生の8単位を担当しており、その詳細は以下のようになっています。

■1年次

Integrated EnglishⅠA・ⅠB
Integrated EnglishⅡA・ⅡB

■2年次

Advanced English Ⅰ
(Intensive Reading / Pleasure Reading /Academic Writing /Essay Writing /Discussion & Debate /Communicative Grammar / Presentation / Speech Clinic /Public Speaking /Cinema English /Media English / Vocabulary Building /TOEIC / TOEFL/ EAP etc.)



1年次の「Integrated English A」はReadingとWritingを日本人講師が、「Integrated English B」はSpeakingとListeningをネイティブスピーカーの講師が担当しています。
いずれも4技能をベースとしたコミュニカティブな指導が行われ、TOEICのスコアによる習熟度別クラス編成となっています。EPUUの教育は基本的にチームで行われており、指導方法やテキストはレベルごとに統一されています。
そして2年生になるとAdvanced EnglishⅠに移行し、上記の科目の中から各自の興味に応じて選択します。

コロナ禍での英語教育

次に新型コロナウイルス感染症が広がる最初の年となった2020年度の英語教育について少しご紹介します。緊急事態宣言が発令されて以降、基本的に講義は全てオンラインで行いました。リアルタイムでオンライン講義を行う場合は、学生の通信に不具合が生じた場合授業に支障が生じるため、大学のプラットフォームを活用しいつでも視聴可能なオンデマンド形式で講義を行っていました。
2021年度になってからは、対面形式とオンライン形式を組み合わせて実施するようになりました。対面形式の場合は30名ほどのクラスをGroup 1と Group 2に分けて交互に実施することで蜜にならない環境を作りましたが、ペアワークやグループワークは叶わないままとなっています。

授業外学習について

授業外学習については、受益者負担方式によりeラーニングの「ALC NetAcademy NEXT TOEIC500点・600点・730点突破コース」を活用しています。習熟度別に指定したコースを1年間で終了するという設定にしていますが、意欲のある学生が指定された課題以上の学習を行うケースも見られます。学内で実施しているTOEIC® IPテストの受験後のアンケートでは、37%の学生がALC NetAcademy NEXTが役に立ったと回答し、「役立った学習」の選択肢の中で最も大きな割合となりました。

EPUUの見直しについて

2009年に始動したEPUUですが、これまで全体的に問題なく運営してきていると伺っています。ただ、引き続き変化の激しい国際社会の中における英語教育の在り方として、立ち止まることなく進化を続けるため、現在様々な角度からの見直しに着手していらっしゃいます。その見直しのポイントは大きく4つあります。

1.World Englishesという考え方

全世界の中で英語を母国語として使用する人の割合よりも、英語を外国語として使用する人の割合の方が圧倒的に大きく、もはや英語を母国語として使用しない人同士の英語による会話が多数を占めるようになってきた現在、つまり「World Englishes(世界で使われる多様な英語」という状況を鑑みたとき、EPUUで使用する英語教材のモデルは必ずしもネイティブスピーカーでなくてもよく、また、非英語圏から教員を採用することも検討しています。



2.大学の教学マネジメント指針の反映

宇都宮大学では中央教育審議会の答申(2012、2018)を受け、令和元年(2019)に「宇都宮大学教学マネジメント確立のためのガイドライン」を策定しましたが、その中で謳われている以下3つの柱を反映させることを予定しています。
2-1、学習者本位の教育であること
2-2、社会に対して説明して納得が得られる体系的な内容の教育課程とすること
2-3、学習成果を可視化すること
特に学習成果の可視化については、例えば「楽しく授業を行う」のはいいが、その結果どのような力を身に着けることができたのか、という点を検証していく必要があると考えています。

3.21世紀の教養教育のありかた

2010年に日本学術会議により提言された「21世紀の教養と教養教育」に次のような記載があります。
"21世紀の教養教育という提言の中で「国際共通語として広く使われている英語の教育は、・・・口頭によるコミュケーション能力だけでなく、むしろアカデミック・リーディング、アカデミック・ライティングおよびプレゼンテーションを核とするリテラシー教育として充実を図ることが重要である。"
この提言も踏まえ、EPPUでは今回の見直しにあたってEAP (English for Academic Purposes)の重要性を再認識しています。

4.EAP (English for Academic Purposes)の必要性

上記「3」も踏まえ、今回の見直しの中で念頭に置いているのが、EAPの重要性です。
政府は高等教育機関におけるグローバル化推進政策の中で、英語による授業のみで卒業できる学位課程の拡充を推奨しており、実際に英語で授業を行う大学が増えています。宇都宮大学においても学部で27科目、大学院では36科目において英語で授業を行っています。
この英語で教える授業EMI(English Medium Instruction、英語を教授言語とする授業)を非英語圏で行うためにはEAPのインストラクションが必須であるとも言われています。ところが実際はコミュニケーションを意識した英語教育が多く行われ、EAPのプログラムが準備されている例が少ないと言われているのが現状です。
そのような背景を踏まえ、学部での学びに必要な英語スキルを身に着けること、つまりEAPをしっかり実践することが基盤教育センターにおける教養教育に必要なことではないか、と考えるに至ったとのことです。

スローガンの変更

そのような経緯でEAPを軸にした改革を進めることになったわけですが、その骨子は以下の通りです。
◆学部・専門につなげる
◆学術・研究のための英語教育に向かう
(目的をもった授業内活動)
◆「何ができるようになったか」を学生が自覚できるような教育
(スキル目標の明確化、独自の評価指標)
◆英語スキル+内容(トピック)について深く学ぶ機会も作っていく

これに合わせる形でスローガンも変更することになりました。
EPUU創設以来の伝統でもあったスローガン「浴びる英語」ですが、「英語を浴びて、それでどうするのか」という視点を加え、新たに「学びの世界の扉のマスターキーを手に入れる」と変更することにしました。英語というのは「マスターキー」でありそれを持っていれば様々な分野の学問の扉が開く、という意味が込められています。



学部につなげる英語教育構想

それでは具体的にはどのように学部教育につなげる英語教育を実践していくのか、その構想もご紹介いただきました。EPUUはもともと1~2年次までの英語教育となるわけですが、2年次で実施していたGeneral Englishを変更し、EGAP(English for General Academic Purposes、学術英語)を取り入れることを計画しています。さらに3~4年次では学部に特化したESAP(English for Specific Academic Purposes)、もしくはEMI(English Medium Instruction)を行う計画としており、これらの教育を学部独自で、あるいは学部とEPUUがコラボして施していく予定です。

また、2年次に行うAdvanced Englishに関しても、従来は学部に特化したEAPを実施していましたが、今後はもう少しジェネラルな内容に変更していく予定です。これは、詳細な内容に踏み込むまでの専門性を有しない英語教員は、各学部に共通するアカデミックスキルの部分を担うべきではないかという考えに基づいています。
2022年度の2年時のAdvanced Englishの科目はすべてこの方針に沿って変更する予定となっています。

独自評価指標の設定とシラバスの記載変更

今回の見直しにあたりEPUUでは、CEFR-JをベースにEPUU独自のCAN-DOを作ることを計画しています。「学生が何を学んだか」、「何を身に着けたか」という点について学生も教員もしっかりと可視化することを目指しています。

例えば、
・Listening (Note-Taking)
・Speaking (Discussions and Conversations)
・Speaking (Presentation)
・Reading (Summarizing)
・Writing (Research)
といった観点を定め、それに沿った目標を段階的なリストとして設定し、CAN-DO全体を構成していくことを想定しています。そしてまたシラバスにおいても、CAN-DOに基づく目標を設定し記載していく必要があります。そして目標に沿ったアサインメントが課され、それをルーブリックで評価するための評価基準も取り入れていく必要があると考えています。合わせてGrading Policyも変更し、観点別のスキルベースで評価していく必要があるとも伺っています。

EPPUの振り返り

今回の見直しにあたり「日本におけるEAPの質保証のためのチェックリスト(Iijima, et al. 2020)」に照らし合わせてEPUUの実施状況を検証しており、それを最後にご紹介いただきました。
以下△の項目はEPUUで未着手、もしくは対応中のため、今後も継続して取り組む必要があると考えているものを示しています。

・EAPプログラムの目標とターゲットスキル(CAN-DOリスト)の公表: △
・シラバス、レッスンプラン、教科書、教材、テスト、評価基準の統一性: △
・教材、指導法の共有: 〇
・定期的なFD研修: 〇
・外部試験の導入: 〇
・教員間の授業見学: △

以上が宇都宮大学様における学部横断統一英語プログラム「EPUU」の概要と見直しに向けた取り組み状況です。EPUUの見直しについては一部試行も始めていますが、来年度以降に着手していく部分もあります。その過程で学生に記述式のアンケートも行っていますので、学生の希望も考慮しながら、また一方で、「学部でどのような英語が必要になるのか」という点についてしっかり説明も行い、英語教育を作り上げていく予定とのお話でした。

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