近年、日本の企業で外国人社員が増えてきていますが、外国人社員の受け入れに関しては、多くの企業がまだまだ手探り状態です。今回は外国人社員を受け入れている企業から聞かれる悩みとともに、その解決の一助となる外国人社員研修について取り上げ、研修を成功させるポイントをご紹介していきます。
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厚生労働省によると、2024年10月末時点の外国人労働者数は約230万人と、過去最多を記録しました。
外国人労働者が増えている背景には、2つの大きな理由があります。1つはグローバル化の進展により日本企業が優秀な外国人人材を必要としていること、もう1つは日本の少子化に伴い日本人の労働人口が急激に減少していることです。
こうした状況を受け、2019年には「特定技能」という在留資格が新設され、さらに同年、「日本語教育の推進に関する法律」が公布、施行されました。
この法律では、事業主について以下の条文があります。
事業主の責務(第6条関係)
外国人等を雇用する事業主は、基本理念にのっとり、国又は地方公共団体が実施する日本語教育の推進に関する施策に協力するとともに、その雇用する外国人等及びその家族に対する日本語学習の機会の提供その他の日本語学習に対する支援に努めるものとする。
このように雇用側が日本語教育に配慮する必要があることが法律によって明文化されたことは、社会的に大きな意義があるといえます。
外国人社員が職場にもたらすものは、労働力だけではありません。外国人社員の採用により、これまでの職場にはなかった新しい発想やアイデアが生まれ、職場が活性化するというメリットもあります。
また、日本人社員がおしなべて黙っている会議の席などでも、外国人社員は自分の意見をはっきりと述べることが多く、その熱心で前向きな姿勢に周囲の日本人社員が刺激を受けるという声もよく聞かれます。
日本語の勉強もそうですが、何事にも一生懸命に取り組み、日本という異国で懸命に生きていこうと努力する姿は、日本人社員にポジティブな影響をもたらすことが多いようです。
このようにメリットが多い一方、実際に外国人社員を受け入れている企業からは業務上のさまざまな悩みが聞こえてきます。
仕事の場面において、外国人社員に日本人の上司や同僚の意図が正確に伝わらなかったり、通じるはずの日本語がうまく伝わらず、業務に支障が出てしまったりすることがあります。
これは、日本社会に「物事をあまりはっきり言わない」傾向があることが関係しています。日本人同士であれば、あいまいな表現や、いわゆる「空気を読む」ことでなんとなく意思疎通ができる場面でも、異なる文化背景を持つ外国人社員にはその意図が伝わりにくいことが少なくありません。
日本の企業文化の特色の一つは「チームワーク」です。これは、日本企業の強みとも言えるでしょう。
多くの日本企業では、仕事を一人だけで完結させることはほとんどなく、チームメンバーとの連携や協力が欠かせません。そのため、例えば同僚が仕事に追われて困っている様子であれば、さりげなく気に掛けたり、必要に応じて声を掛けたりすることが自然と行われます。こうした日常的な気配りやコミュニケーションを通じて、強いチームは築かれていくのです。
一方で、こうした文化に十分な理解がない外国人社員も少なくありません。自身に与えられた範囲の業務については懸命に取り組むものの、チームメンバーの状況についてはあまり関心がないように見える、という指摘もしばしば聞かれます。
企業の外国人社員の受け入れにおいて最もよく聞かれるのがこの悩みです。
外国人社員が離職する理由は、給与や待遇への不満だけではありません。外国人ならではの不満や悩みも、離職の大きな要因となっています。
例えば、「担当業務にやりがいを感じられない」「成果が正当に評価されていないと感じる」といった不満が挙げられます。また、上司や同僚とのコミュニケーションに壁を感じたり、職場に馴染めなかったりすることも、離職につながる可能性があります。
これらには、企業側の受け入れ体制や日常的なコミュニケーションのあり方が大きく関わっていることが多いようです。
外国人社員を雇用する企業が直面するこれらの課題は、大きく分けて、外国人社員の「日本語能力の不足」と「日本企業文化への理解不足」の2点に集約されます。そして、この2つの要素は相互に密接に関連しており、切り離して考えることはできません。
例えば、業務上で適切な日本語を使いこなすためには、その背景にある文化や価値観を理解していることが前提となります。仮に日本語の表面的な運用能力が高くても、企業文化への理解が伴っていなければ、業務上の課題は根本的に解決されません。
したがって、企業側には、外国人社員に対して「言語支援」と「異文化理解支援」の両面からサポートを提供することが求められます。
昨今では、多くの企業において、こうした取り組みが広がりつつあります。
これらに加えて、異文化理解研修や日本語研修といった「研修プログラム」を導入し、体系的な知識とスキルを習得するのも非常に有効です。
それでは、異文化理解研修、日本語研修を効果的に実施するには、どのような点に留意すべきでしょうか。以下、研修を成功に導くための具体的なポイントについて詳しく解説します。
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研修を行う上でまず大切なのは、研修の目的を明確化し、社員本人にしっかり伝えることです。
例えば、「業務に必要な日本語スキルの向上」が目的なのか、「チーム内のコミュニケーションを円滑にすること」が目的なのかによって、本人の研修の受け取り方も全く違ったものになりますし、取り組む態度も違ってきます。
目標はあまりたくさん挙げずに、優先度の高いものに絞り込み、確実に達成できるようにすることがポイントです。達成感が得られれば、モチベーションも高まっていくでしょう。また、直属の上司や同僚にも目的や目標を共有し、協力体制を整えておくことも大切です。
目的や目標がなかなか決まらなかったり、漠然としている場合は、外部の専門家と一緒に具体化させていくのがおすすめです。
目的や目標を設定したら、社内や部内で、以下のようなことを確認しておくといいでしょう。人事部や関連部署などとの調整が必要な場合もあると思います。
また、外国人社員(研修受講者)への説明も必要です。
※この表は左右にスクロールできます。
項目 | 確認事項 | |
---|---|---|
1 | 予算と期間 | 関連部署と合意がとれているか |
2 | 研修担当者の業務負担 | 担当者は研修にどの程度時間を使えるか。他業務との兼ね合いは無理がない範囲か |
3 | 研修のタイプ | 集合研修か、個別研修か(集合研修の場合は特に、参加者全員のスケジュール調整が必要) |
4 | 研修のスタイル | オンラインか、対面か。研修場所の確保は可能か(オンラインの個別研修でも、部屋を用意する必要がある場合も) |
5 | 研修の時間 | 業務時間内か、業務時間外か。関連部署や外国人社員の同意も必要 |
6 | 実施主体 | 社内実施か外部委託か。ノウハウや研修の質、費用対効果など考慮して判断する |
異文化理解研修、日本語研修を行っている研修機関は数多くありますが、研修内容や講師の質はかなり異なります。ホームページなどで、特色や実績などを必ず確認するようにしましょう。
候補の機関がある程度絞れたら、企業としての課題意識やゴールイメージなどを伝え、研修プランと見積書の作成を依頼します。不明点があれば早めに質問・確認し、その内容と費用が見合っているかを十分に検討した上で、最適な機関を選ぶとよいでしょう。
●研修機関のチェックポイント●
次に、異文化理解研修で大切なこと、日本語研修で大切なことをそれぞれ具体的に見ていきましょう。
外国人社員向けの異文化理解研修を行う際に、一番気を付けないといけないことは「日本のルール、マナーはこうだから、それを覚えて行動すべきだ」という一方的な押し付けをしないことです。
表面的な理解にとどまらず、日本にはなぜこのような文化や商習慣があるのか、なぜその価値観が大切にされているのかを深く理解してもらうことが異文化理解研修の肝となります。そして、外国人社員であることを強みとして、企業に貢献できる人材であることを意識してもらうことも必要です。
また、異文化理解研修は、日本人社員に行うことも有効です。「ダイバーシティ&インクルージョン」に取り組む企業こそが、個々の能力を最大限に生かし、発展していく企業となるからです。
研修を考える際に「目的、目標の設定」が大切だと述べましたが、いつまでにどの程度実力をつけられるか具体的に検討するために、まずは外国人社員の実際の日本語レベルを測る必要があります。そしてその結果から実現可能な到達目標を決めていきます。
日本語レベルを知る際によく用いられている指標としてJLPT(日本語能力試験)がありますが、日本語の知識を問うJLPTでは、実際にどのくらい日本語を使ってコミュニケーションがとれるかはわかりません。
「日本語で社員とコミュニケーションが取れるようになってほしい」という目的、目標で日本語研修を行う場合には、必ずコミュニケーション力を測るテストを行い、実際の日本語レベルを確認しましょう。コミュニケーション力を測るテストとしては、会話力テストや、文を作る力を測るテストなど、アウトプット型のテストが有効です。
日本語研修を初めて行う場合に失敗しがちなことは、研修の目的、目標と研修内容が一致しておらず、思ったように効果が出ないというケースです。
日本語力の向上といっても、読み書き、日常会話、社内の人とのビジネス会話、社外の人とのメールのやりとりなど、目的や目標は多岐にわたります。
例えば「これから来日する外国人社員が社内の人と簡単な日常会話ができるようになる」ことが目的の日本語研修において、ひらがなやカタカナ、漢字などの文字を集中的に学ぶ研修を行ってしまっては、目的、目標と研修内容が離れてしまいます。
文字を習得するのは日本語力を高めるために必要なことではありますが、研修の目標である「簡単な日常会話ができるようになる」ためには時間がかかりすぎてしまい、せっかくの研修の効果が薄れてしまいます。
研修の目的、目標と内容を一致させるためには、目標と内容を「~ができるようになる」といった形(Can-do)で明確に表し、研修に関わる関係者全員が同じ目的、目標を共有することが大切です。
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今回は外国人社員への異文化理解研修、日本語研修にフォーカスし、研修の有効性とチェックポイントを中心にお伝えしました。
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