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セミナーレポート
大学のグローバル化 情報交換セミナーVol.35

理工系教育・研究におけるグローバル化の取組みとその現状
~大学院授業・演習の英語化を目指して~

全国の大学・高専ではかねてより国際競争力の向上、留学生の受け入れ促進を目的とするグローバル化への取り組みが行われてきましたが、なかでも専門科目の講義を英語で行うことが先生方にとって大きなミッションの1つであったと伺っています。

ただ、実際には英語で授業を行うことができるのはほんの一部の先生に限られていたり、また研修を実施しても一過性の効果で終わってしまう、というお話も同時によく耳にしておりました。このような課題を解決するヒントを提供すべく、今回のセミナーでは、アルクエデュケーションで提供している「英語で授業を行うためのFD研修」をご紹介するとともに、実際にそのプログラムを受講され、さらに「世界に存在感のある大学」を目指しグローバル化に取り組んでこられた中央大学 研究推進・産官学連携担当副学長・理工学部教授の加藤俊一先生をお招きし講演をしていただきました。本レポートではそのセミナーの内容をご紹介いたします。

セミナーの第一部では「理工系教育・研究におけるグローバル化の取組みとその現状」というタイトルで、この2年間の取り組みについて加藤先生より発表していただきました。 冒頭で、「いいところだけでなく苦しい現状も報告します」とお話された通り、理工系学部を持つ私立総合大学のグローバル化における現状と課題について語っていただいています。



<第1部>
講演者:加藤俊一先生
中央大学 研究推進・産官学連携担当副学長・理工学部教授

グローバル化への取り組みの背景と課題

人文社会系の学問が歴史や言語など地域性を重視するのに対し、理工系の学問では「科学には国境がない」と言われる通り世界共通の概念を扱います。そのため、いい研究者であるためには世界との競争、世界に向けての成果の発信が必要となり、すなわち道具としての英語が前提となります。また、研究活動というのは「個人」ではなく「チーム」で活動するのが一般的で、チーム活動においては外国籍のスタッフとの交流や海外との連携も必然となり、従ってやはり英語力が必要となる世界です。

そのように世界との境界がない理工系学問の分野では、大学を評価する際にまず、「英語での研究成果発信」に重きを置くTHE (Times Higher Education) 世界大学ランキングを参照されてしまうという傾向があります。一方で私立大学では、一般的に人文社会系の学部が占める割合が高く、また「研究成果発信」よりも「教育の丁寧さ」が重要視されることも多く、全学的視野でグローバル意識を共有することが難しいという現状もあります。

長い間そのような状況に触れる中で加藤先生は、教員はもちろんポスドク、院生、学生まで含め理工系全体で頑張るしかない、という決意を固めておられました。

ところが現実には、英語が得意な中高生はいわゆる国際系学部に行くことが多く、また英数(情)理の3科目とも得意な理工系の生徒は、より上位の大学に行く傾向があるという厳しい現状もありました。

そのような中でも中央大学では「世界の中で存在感のある大学を目指す」という中長期事業計画を策定するに至り、理工系教育・研究全体でグローバル化への取り組みを本格的に開始しました。

具体的には、教員は海外の大学とのDouble Degreeの前提となる「英語で学べる科目」の運営、助教は院生の国際研究発信を含めた研究指導、院生はグローバルな専門学習力、国際研究発信力の向上、そして学生は専門度に応じたグローバル体験というように、教員から院生、学部生まで含め理工系の全構成員で取り組む計画となっています。



取り組みの過程と成果

この計画を実施するために、学内でも3年計画で予算も工面しました。
その予算は主に、教員のグローバル教育力の向上や院生・学生のグローバル基礎力の向上に資する活動に充てられましたが、全てを学内で実施するのではなく外部機関とも効率的な連携も行いました。その取り組みの1つ、教員の講義英語化を進めるための支援としてアルクエデュケーションの「英語で効果的な授業を行うためのFD研修」、そして「授業運営サポーター」を採用していただいています。

1つ残念なことに、学生の留学体験についてはコロナ禍以降そのほとんどが停止しており、グローバル化に向けた学生のモチベーションにも低下傾向がみられます。一方で、国際学会がオンラインで実施されるようになったことで教員や院生が国際学会で発表することへの敷居が下がり、従来よりも国際学会等に参加する機会が増えたことも事実です。今後もコロナ禍が継続する場合は、オンラインによる海外の大学との交流など、留学に近い体験ができるプログラムの準備にも取り組む予定です。

このような一連の改革に取り組むにあたり、やはり学内での反感もないわけではありませんでした。そこで学内全体の状況も踏まえ留意したのが以下のような点でした。


・講義英語化については若手から取り組む
・アウトソーシングを活用し学内の負担を軽減する
・受益者負担も活用する
・全学を動かすのではなく、できるところから着手する
・対象となる教員、院生、学生に成功体験を提供する
・改革により学生の教育の質が向上する、という大義を掲げる

このような取り組みの成果として、2019年度には6科目しかなかった英語による授業が、2021年度には46科目に増えました。海外大学とのダブルディグリーや研究交流推進を理念的目標に掲げ、英語だけで修了できるコースを各専攻で9科目(18単位)実現することを目標にしてスタートした中、2年間の結果として9つの専攻中4つの専攻でその目標を達成することもできました。

取り組みにおける工夫

2年間の取り組みでこのような成果を達成した要素として学内の教員をうまく巻き込んだことが挙げられますが、加藤先生は実際に以下のようなポイントに留意していました。

・完ぺきを求めず脱力系と感じてもらえるようなFD研修で取組みへのハードルを下げた
・教員自身のメリットと学生のメリットをしっかり説明した
・授業運営サポーターという支援制度を活用できることを周知した

具体的には、例えば教員自身のメリットとしては、英語化に取り組むことで国際会議への対応が容易になるという点を伝え、また学生も英語力向上になるばかりか、結果として学生の英語論文執筆力も向上するため指導が楽になる点などを丁寧に説明しました。

また、この点は吉中講師も同じことをコメントしていますが、講義を英語化することで、自分の講義内容を見直す機会となり、結果としてポイントを押さえたシンプルでわかりやすい講義展開ができるようになる点も大きなメリットであることを説明しました。



反対にデメリットとしてよく聞かれる意見に対しても、以下のように説明しています。
例えば、「学生の理解度下がるのではないか?」という懸念ですが、この点は先ほどの通り、英語で行うことでポイントを押さえたわかりやすい講義になるため、実は習熟度には差がないということを説明します。他にも「留学生がいないのに英語で授業を行う必要があるのか?」という疑問もよく聞かれますが、この点については、講義の英語化は必ずしも留学生のためだけではなく、日本人学生の英語力の向上・研究力の向上にも直結するということを説明しています。実際に加藤先生の研究室の学生は、英語を使うことへの苦手意識が低くなり、それにより研究に積極的に取組むなどのいい影響が出ています。そのような経験は、将来海外に留学した際にも役に立つことは言うまでもありません。

先生は講演の最後に一人の学生の例を紹介してくださいました。
その学生は研究活動においていい成果があったため加藤先生が背中を押し、国際学会で発表を行うことになりました。もともと英語を使うことに苦手意識をもつ学生でしたが、英語学習アドバイザーでもあり中央大学にサポーターとして勤務しているアルクのサポーターも活用し、彼女はオンラインで実施された国際学会で無事に発表を終えることができました。この一人の学生の挑戦と成功体験は、もちろん学生本人にとって大きな成果となりましたが、それだけではなく彼女がその後学内で後輩たちにその経験を伝えたことで、一人の成果だけではなく周囲にも非常にいい影響が生まれました。このような成功体験が本人はもちろんグローバル化に取り組む理工学部の中でも大きな意義があったと加藤先生は締めくくりました。


<第2部>
講演者:新垣裕子
弊社英語学習アドバイザー

加藤先生のご講演に続き、中央大学理工学部に授業運営サポーターとして勤務している弊社の英語学習アドバイザーの一人、新垣から現場の状況を報告させていただきました。
新垣が勤務を開始したのは2019年5月、その後平均して週3回、午前、又は午後に大学に滞在しています。当初は後楽園キャンパス内で勤務していましたが、コロナ禍の現在はオンラインにて対応を継続しています。授業運営サポーターが支援する内容以下の通りで、ちょっとした学習相談から本格的なプレゼン練習など多岐にわたっています。

・授業英語化に関する教員の支援
・シラバスの書き方、教材や資料作成のサポート
・英語による授業でのアクティビティー、学生対応に関するサポート
・教室英語表現の指導

新垣は、できる限り効果のあるサポートを行うため、対象の先生の講義を見学して指導することもあります。また、サポート対象は教員だけではなく、学生も相談、指導を受けることが可能です。学生の場合は、一般的な英語学習方法の相談から、本格的な学会発表対応、院進学準備まで対応しています。新垣はこの2年間の勤務について、就任当初は利用度も低かったものの、徐々に認知度が上がり実際に先生方の講義の英語化に直接影響を与えることで信頼感も出てきた、と振り返っています。そして印象に残っている出来事として、教員が英語を使用した姿を見た学生が「自分もあのようになりたい」とあこがれを語った際の様子を挙げてくれました。


<第3部>
プログラム紹介:吉中昌國
弊社専属グローバル人材開発コンサルタント

英語で効果的な授業を行うFD研修

続けて弊社の「英語で効果的な授業をするためのFD研修」について、実際にプログラムを開発し、10年以上全国の大学で研修を実施している吉中昌國講師よりプログラムの紹介を行いました。

このプログラムは、授業を英語で行うノンネイティブの専門科目の先生向けに開発されたものです。授業を英語で行う場合、十分な情報量を伝えられずに学生の理解度が低下してしまうのではないか、という懸念が多く聞かれます。このプログラムではそのような課題を解決する方法を紹介しながら実際に英語で授業を行う準備をサポートします。

このFD研修には半日版から3日版、さらにセミナー形式など様々なスタイルがあり、オンラインでの実施にも対応しています。また、初めて受講いただく際の基礎編と、基礎編を受講いただいた先生向けの応用編もあります。参加される方の英語レベルに合わせて日本語と英語を使う割合を変えています。教室英語表現や効果的な言い回し等も紹介しますが、英語力の向上自体を目的とするよりも、ノンネイティブスピーカーとして現在の英語力で効果的に授業を運営する方法にフォーカスしています。また、参加される先生同士での意見交換や情報交換も特徴の1つとなっています。



プログラムはファシリテーション型のワークショップとなっており、下記の6つの要素から構成されています。

英語で効果的な授業を行うためのFD研修の構成要素
1、授業設計のコツ
2、英語で話すコツ
3、やる気を育てるコツ
4、巻き込むコツ
5、異文化理解のコツ
6、模擬授業

各項目に複数のトピックとアクティビティーを用意しています。以下、各構成要素の中身を簡単にご紹介します。

「授業設計のコツ」では以下のような項目を扱います。
・コース目的の絞り込み
・先生自身は何を教えたいのか
・学生に何を学んでほしいのか
・学生にとっての学習目標の作成
・コースシラバスの要素
・効果的なセッションの流れ
・形成的評価

「英語で話すコツ」では今持っている英語力で効果的に話す工夫にフォーカスし、以下のような項目を扱います。

・授業で使う英語表現
・ノンネイティブスピーカーとしての工夫
・文法的エラーのインパクト
・適切なスピードと理解しやすい文体

「やる気を育てるコツ」では以下のような項目を扱います。
・効果的な自己紹介の方法
・情熱の開示
・興味を持ってもらうためのフック
・授業の重要さを語る

この中の「情熱の開示」では、自分の専門分野を選んだ理由を学生に語る練習を行います。「授業の重要さを語る」では「学術的な理由」「仕事に役立つ理由」「学生の人生にとって役に立つ理由」の三つの角度から語ることを考えます。

「巻き込むコツ」では次のような項目を扱いますが、これは、英語による授業では確かに「与えられる知識量が減る」こともあるものの、その分「学生の巻き込み量」を増やせば、学習量は維持できるという吉中講師の考え方に基づいています。

・静かな学生へのアプローチ
・肯定的な反応
・ほめる方法
・質問への対応方法
・効果的なフィードバックの方法

そして「異文化理解のコツ」では以下のような項目を扱います。「留学生の不思議な行動」ではミニケースを用いてディスカッションを行います。

・人的ダイバーシティーのメリット
・文化の多層構造の理解
・留学生の不思議な行動
・コミュニケーションスタイル

「模擬授業」では一人20分のマイクロレッスンを準備し、順番に実施していただきます。実施後は参加者による相互フィードバックを行い、最後に吉中講師からも細かなフィードバックを行います。この模擬授業では参加者の実際の講義の素材を用いて行うため、非常に実践的な内容となっています。

以上が「英語で効果的な授業を行うためのFD研修」の概要です。過去10年間に全国の40校を超える大学・高専において実績がありますが、そのすべてを吉中講師が担当しているため、多くの知見が集積されています。そのため、どの専門分野の先生にも満足していただける内容となっています。

本FD研修の詳細を確認したい場合は、いつでもご遠慮なく担当営業にお問い合わせください。

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