こんにちは。グローバル人材育成の「アルク」のライティングチームです。
国内の外国人労働者数は、2022年時点で182万人を突破1)。その割合は、同年の全労働人口6902万人の2.6%2)ですが、2070年には12.3%にまで拡大するとの予測データもあります3)。そうしたなか、外国人社員の採用や雇用、そして教育には、どのような注意や戦略が必要でしょうか。この記事では3つの角度から、ありがちな課題を検証します。また、外国人社員と日本企業それぞれの立場から、問題が起こる背景を探り、外国人社員に向けた人材教育のポイントを、実例を挙げながらご紹介します。
1)出典:厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況のまとめ
2)出典:統計局労働力調査2022年
3)出典:ニッセイ基礎研究所「将来人口推計に基づく2070年の外国人労働者依存度について」
~目次~
JLPTは、日本語を母語としない人向けの日本語能力測定試験で、一番やさしいレベルのN5から、最も難しいレベルのN1までの5段階で設定されています。
世界で最も受験者数が多い日本語の試験ですが、聞く力・読む力を通して日本語の知識量を測るペーパーテストであり、実践的なスピーキング力は判定できません。
日本語のスピーキングテスト「JSST*」の結果に照らしてみると、同じJLPT N1レベル合格者でも、日本語のスピーキング力には大きく差が出ることがわかります。
これはちょうど、TOEIC®がハイスコアでも、思うように英語を話せない日本人が少なくないのと同じです。「JLPT N1を取得しているし、面接時の受け答えもしっかりできていた」としても、企業が仕事で求める日本語力があるとは、必ずしも限らないのです。
*JSST(Japanese Standard Speaking Test) 日本語のコミュニケーションを測定するアルクのスピーキングテスト(10段階判定でレベル10が一番高い)
関連記事:「外国人社員の日本語力をどう知るか」「遠回しに話をし、ズバリと要点を言わない」、「本音と建て前を使い分ける」などは、日本人には当たり前でも、外国人社員からすると理解しづらく、コミュニケーションの行き違いや、不満のタネになりがちです。
「報連相(報告・連絡・相談)」「5分前行動(予定よりも早め、早めに行動する)」「電話は新人がとる」など、仕事をする際の習慣やルールが多い会社も少なくないようです。言葉遣いや身だしなみの規定なども含めて、外国人社員にはすんなり納得できない傾向にあります。
サービス残業、時間通りに終わらないミーティング、「みんながやっているのだから」という'チームワーク'の押し付けなども、個を大事にする外国人社員の不満につながることがよくあります。
日本特有のマナー・商習慣など、文化の違いが大きすぎて理解できず、'慣れる'以前に、ストレスがたまって疲弊していく外国人社員が少なくない実状を、人事担当として知っておくことも大切です。
出典:リュウカツ「【プレスリリース】第2回 日本で働く外国人社員アンケート調査結果」
https://ryugakusei.com/news/12406/(回答人数:124名) 複数回答
日本人社員への対応と異なり、外国人社員には人材教育や研修を実施していないという企業が、7割以上にのぼります4)。これは外国人社員の目に、「会社は自分を軽視している」と映りかねませんし、未来に期待できないと感じれば、仕事に対する意欲も削がれていく可能性があります。
日本企業に就職した外国人社員のモチベーションを調べた調査5)によると、入社1年以内にモチベーションダウンを経験する人は半数以上。その中で入社3か月以内という早い段階でモチベーションが下がってしまう人が、約3割いることがわかりました。
同様に、およそ3割の外国人社員が入社1年以内に、うち半数以上は入社半年を待たずに離職しているという報告6)もあります。
早期離職の主な理由7)のうち、人材教育やキャリア設計に関するものとしては、「上司のマネジメント・指導に対する不満」がもっとも多く、次いで「業務内容のミスマッチ」が上がっています。「業務を遂行する上での必要なトレーニングやサポートの不足」も21%にのぼり、外国人社員も日本人社員と同様、スキルアップや成長のために、会社の支援を求めていることがわかります。
4) 株式会社ディスコ キャリタスリサーチ「外国人留学生/高度外国人材の採用に関する企業調査」<2019年12月調査>
5)、6)、7) 株式会社エイムソウル、ヒューマングローバルタレント株式会社、リフト株式会社による調査
※株式会社エイムソウル、ヒューマングローバルタレント株式会社、リフト株式会社による調査
資料:「アルクの外国人社員育成研修と導入事例」をダウンロードする外国人社員が日本企業で働く際の問題や、雇用の失敗は、どうして起こるのでしょうか。外国人社員と企業サイド、両方の視点から問題の背景を見ていきましょう。
なぜなら・・・
➡日本で働く魅力が下落
例えば・・・
➡せっかく採用した外国人社員が、十分に力を発揮しない。すぐに辞めてしまう。
では、外国人社員が進んで働きたいと思う魅力的な企業づくりには何が必要なのでしょうか。
資料:「外国人社員の育成に必要なこと」をダウンロード産業にイノベーションをもたらすような知識や技能を有する人材を、「高度人材」と呼びます。IMD国際経営開発研究所の「世界人材ランキング2022」によると、世界の高度人材に働きたい国における日本の人気は63カ国中51位でした。同ランキングを元に、アジアの国々を比較した下の図表では、最下位となっています。
日本は社会インフラや医療・環境などの充実が高評価である一方、日本語が話せないと生活しづらいなど、外国人が生活して働くうえでは、まだまだ改善すべき点が多いようです。高度人材の採用を考えるのであれば、個々の企業としても、魅力的で働き甲斐のある環境づくりに力を入れるべきでしょう。
IMD世界人材ランキング2022より
https://www.imd.org/wp-content/uploads/2023/03/2022-imd-world-talent-ranking-.pdf
本人の日本語運用力が必要なレベルにない場合、仕事の遂行に支障が出るばかりでなく、本人自身も苦痛を感じ、意欲を失うことがあります。ビジネスで必要な日本語の教育と評価を行い、能力に応じた人事配置を行うようにしましょう。
■事例
A社(システム開発)では、N1レベルを保有しながら、ビジネスでの会話や要件整理が困難な外国人社員が多かった。日本語の運用力に釣り合わない業務に携わっていることで、モチベーションも低迷していた。
[対策]
・JLPTに加えて、日本語スピーキングテストJSSTの受験を必須化。その結果も考慮して、担当業務を決めるようにした。
・業務内容と日本語力を紐づけることで、評価の見える化をはかり、外国人社員が目標を設定しやすくした。
[成果]
日本語力を適切に評価して人事評価に組み込んだ結果、日本語力と業務のミスマッチが減った。外国人社員自身も目指すべきレベルが明確になり、キャリアアップのため、積極的に日本語力の向上に努めるようになった。
多様な人々が働く職場で皆が気持ちよく働き、支障なく仕事を進めていくためには、円滑なコミュニケーションが不可欠です。外国人社員が日本語や日本文化について、日本人社員も外国人社員の言動の背景や考え方について、互いに理解を深め合えるよう、異文化研修などを通じた積極的な取り組みが大切です。
■事例
B社(メーカー)の場合、入社後なかなか日本のビジネスに慣れることができない外国人社員に対して、指導はOJTのみ。内定辞退や、入社後の意欲低下という問題もあった。
[対策]
入社に先立ち、外国人の内定者全員を対象とした日本語研修に加えて、日本のビジネス対応やマナーについても学んでもらった。
[成果]
会社が全額負担して行う研修は、良質な福利厚生だとして内定者に歓迎された。入社後もモチベーションを保って、熱心に業務に取り組んでいる。
■事例
三菱電機では外国人社員を積極的に登用している。外国人社員育成のため、日本の企業文化や働き方への理解を深める機会を提供したい。そのため、日本人社員との相互理解を促進し、社内のグローバル化を推進する研修を希望した。
[対策]
・日本人の先輩社員と外国人社員が合同で、1泊2日の合宿研修を実施。
・中国、韓国、エチオピア、マレーシアなど、全国から多様な国籍の社員に参加してもらった。
[成果]
日本人社員は、後輩である外国人社員への指導方法について、考えを整理することができた。外国人社員は、日本人の先輩社員と率直に話し、相互理解が深まった。また、外国人社員同士で悩みを共有したことで、前向きにもなれた。「職場でどのように行動したらよいか、明確になった」という声も聞かれた。
今回は、外国人社員を戦略的に育てていくためのポイントを、日本語教育と異文化コミュニケーションの視点からご紹介しました。言葉、文化、教育という3つの角度から、外国人社員と日本企業のそれぞれの立場から問題が起こる背景を探ることで、外国人社員育成のポイントが見えてきますね。
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